本年度は、(1)日常会話における「会話の含意」と誘導推論、(2)議論フレームワークにおけるダイナミズム、(3)さまざまなタイプの欺瞞の論理的形式化、(4)利己的なエージェントが社会に与える影響、について研究を行った。具体的研究内容は以下の通りである。(1)日常会話において話者の意図を推定する「会話の含意」を信念の論理を使って定式化し、アブダクションを用いて話者の意図を推定する方法との比較を行った。また、話者が聴き手の推論結果を予測することで聴き手を誤誘導(mislead)するプロセスも形式化した。(2)抽象議論フレームワークにおいて世界が変化した場合に受理される論拠への影響、及びプレイヤーが持つ情報量を比較する基準について検討を行った。また、議論フレームワークの異なる意味論のもとでの解集合プログラミングへの変換手法を導入した。(3)日常生活におけるさまざまなタイプの欺瞞(deception)を論理的に形式化し、欺瞞が発生する前後におけるエージェントの信念の変化をモデル化した。また自己矛盾を含むといわれる自己欺瞞(self-deception)は第3者を経由することで無矛盾に発生しうることを明らかにした。(4)複数のエージェントが協同作業を行う環境において、自らの利益を最大化するために利己的に振る舞うエージェントを導入し、エージェント社会への影響についてシミュレーション実験を行った。利己的なエージェントとしては、他人の情報にただ乗りするフリーライダーや誤情報を発信する嘘つきエージェントなどを導入した。実験の結果、利己的なエージェントの存在は社会全体の利益を高める効果があり、その存在は必ずしも害とはならないことが観測された。(1)-(4)の研究成果は国際会議で論文発表を行い、理論的成果をまとめた国際ジャーナル論文1本を出版した他、別論文1本の海外ジャーナル掲載が決定している。
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