研究課題/領域番号 |
24500179
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
神尾 武司 広島市立大学, 情報科学研究科, 講師 (20316136)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | マルチエージェントシステム / 強化学習 / 多船航路探索 / 先験的知識 / 航法 |
研究概要 |
船舶は大量の物資を低コストで運搬できる重要な輸送手段であるが,衝突などの事故が発生した場合,経済や環境に多大な損失を与える.したがって,安全性と効率性を勘案した航路を事前に選定することは船舶運航にとって極めて重要である.本研究の目的は,多船航路探索のために構築したマルチエージェント強化学習システム(以後,MARLSと呼ぶ)を用いて現実的な海域状況を考慮した海上交通アセスメントツールを構築することにある. 平成24年度は研究実施計画に従って,『新規ルールの導入に対する航路の安全性と効率性の評価』の実現に向けた研究を実施した.具体的には,安全性を自船と他船の位置関係から推定される最接近距離(DCPA)で評価し,効率性を総航路長で評価するシステムを構築した.計算機実験の結果,安全基準を満足しつつ,平均的には総航路長が短縮化されることを確認した.しかしながら,航路長に対する効率性が不十分なケースも確認された.この原因を明らかとするために,MARLSが航路を獲得するまでの様子を逐一観察したところ,安全性の高い航路を獲得した後,その航路で固定化されてしまうケースが見られた.つまり,総航路長の最適化を保証するはずの強化学習による探索が十分に機能していないことが明らかとなった.この問題は強化学習における問題の1つである『探索と知識利用のジレンマ』と密接な関係があるため,単純な方法で探索能力を引き上げると,解自体が得られなくなる可能性がある.そこで本研究では,MARLSの特徴の1つである行動選択制限(LAS)を安全性もしくは効率性のいずれかを重視するように制限し,さらにそれを逐次切り替えることにより,安全性と効率性が両立することを確認した. 上記の研究成果から,安全性と効率性を考慮した多船航路探索が可能となり,海上交通アセスメントツールとしての基礎が構築されたといえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画の通り,『新規ルールの導入に対する航路の安全性と効率性の評価』の実現に向けて,安全性を自船と他船の位置関係から推定される最接近距離(DCPA)で評価し,効率性を総航路長で評価するシステムを構築した.本システムによって,安全基準を満足しつつ,平均的には総航路長を短縮させることに成功した.しかしながら,航路長に対する効率性が不十分なケースも確認されたため,その原因を調査した結果,強化学習による航路探索が十分に機能していないことが明らかとなった.この問題を解決するために,システムが重要視する項目を安全性と効率性の間で逐次切り替える方法を提案した. 『安全性と効率性の重要性を切り替える』方法は原理的に『安全性と効率性を評価するシステム』と競合しないため,航路探索を効率化させるには有効な方法である.現時点では,いくつかの例題を通して,その有効性を確認済みである.しかし,より複雑な問題に対しても実験を行うべきであり,その検証に関しては次年度も継続する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では,提案MARLSにおいて安全性と効率性を考慮した多船航路探索が可能となった.これにより『新規ルールの導入に対する航路の安全性と効率性の評価(第1の研究テーマ)』が実行可能な海上交通アセスメントツールとしての基礎が構築されたとことになる.現時点における研究進捗状況は概ね計画通りであるので,今後も交付申請書に記載した研究計画に従って研究を遂行する. 平成25年度は『衝突パターンの予測と衝突原因の把握(第2の研究テーマ)』を目指す.具体的な研究内容としては,『航路の獲得過程で発生する衝突パターンを観測・分類し,その出現頻度によって発生する可能性の高い衝突パターンを特定する』こと及び『衝突パターンを発生させた行動選択の特徴を抽出する』ことが挙げられる. 平成26年度は,それ以前の研究によって構築された海上交通アセスメントツールの雛型を実用レベルに引き上げることを目標とする.具体的には,海域形状および潮流といった現実的な状況に対する性能評価を行う.さらに,現実の操船者も判断に迷うような多船間の複雑な出会い状況を想定した実験も行う.これらの実験を通じて,何らかの不具合を生じた場合には,適宜システムの修正を行うこととする.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の研究費のうち,約20万円を次年度に使用する予定である.本研究費が生じた主な理由として,研究成果の発表のための出張と研究連携者との打ち合わせのための出張を都合良く合わせることが出来たため,出張回数が削減できたことが挙げられる. 次年度へ持ち越す本研究費は,研究打ち合わせを通じて必要となった船舶関連資料の収集費用に当てるほか,研究連携者以外の船の専門家との意見交換などを実施するための出張旅費などに当てる予定である.また,これらの支出は次年度以降の研究費使用計画にないものである.したがって,翌年度以降に請求する研究費に関しては,当初の予定通りの使用を計画している.
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