研究課題/領域番号 |
24500179
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
神尾 武司 広島市立大学, 情報科学研究科, 講師 (20316136)
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キーワード | マルチエージェントシステム / 強化学習 / 多船航路探索 / 先験的知識 / 航法 / 安全性 / 効率性 |
研究概要 |
船舶は今なお有用な輸送手段であり,安全性と効率性を勘案した航路を事前に選定することは船舶運航にとって極めて重要な課題である.本研究の目的は,多船航路探索のために構築したマルチエージェント強化学習システム(以後,MARLSと呼ぶ)を用いて現実的な海域状況を考慮した海上交通アセスメントツールを構築することにある. 平成25年度は研究実施計画に記載した『衝突パターンの予測と衝突原因の把握』が可能なシステムへとMARLSを拡張するための研究を実施した.具体的には,まず,海上交通アセスメントツールとしての利用を念頭に,従来MARLSに実装された安全度を操船者の感覚に基づくモデルに変更した.そして,様々な多船航路探索問題を解くことで,どのような衝突パターン(ニアミスを含む)が発生するかを調査した.その結果,基本的には航法が規定する『行会い,横切り,追越し』のいずれかに分類されることが確認された.さらに,安全度の時系列と合わせて衝突パターンを記録したところ,安全度の急激な低下などいくつかの傾向が観測された.また,それらの傾向の度合いは衝突状況(行会い,横切り,追越し)によって特徴づけられることも確認された. 以上の研究成果から,衝突状況(行会い,横切り,追越し)と安全度の変動傾向に基づいて衝突パターンの予測および衝突原因の把握が可能であることが明らかとなった.特に,今回新たに導入した安全度は操船者の感覚に基づくモデルであることから,管制官のみならず,操船者の立場からも利用しやすい海上交通アセスメントツールへとMARLSを発展させることが期待できるようになった.この事実は今年度の研究における大きな成果といえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画では,『航路の獲得過程で発生する衝突パターンを観測・分類し,その出現頻度によって発生する可能性の高い衝突パターンを特定する』ことで“衝突パターンの予測”を目指し,一方,『衝突パターンを発生させた行動選択系列の特徴を抽出する』ことで“衝突原因の把握”を目指す予定であった.ところが,研究を進める過程で,衝突パターンを船舶の位置関係によって単純に定義する方法ではMARLSが海上交通アセスメントツールとして利用しにくくなるという指摘がなされた.同様の理由で,衝突原因を行動選択系列によって定義することも不適切であると判断した. そこで本研究では,海上交通アセスメントツールとしての利用を念頭に,従来MARLSに実装された安全度を操船者の感覚に基づくモデルに変更し,様々な多船航路探索問題に適用した.その結果,衝突パターンを航法が規定する衝突状況(行会い,横切り,追越し)と安全度の変動傾向の組み合わせとして定義すれば,衝突パターンの予測および衝突原因の把握が可能であることを確認した. 上記の通り,研究実施計画とは手段こそ異なるものの,MARLSによる『衝突パターンの予測と衝突原因の把握』に関して,その実現可能性を確認することができた.その意味において,「研究はおおむね順調に進展している」と判断する.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終的な目的は,多船航路探索用MARLSを用いて,現実的な海域状況を考慮した海上交通アセスメントツールを構築することである. この目的を達成するために,平成24年度は『新規ルールの導入に対する航路の安全性と効率性の評価』を,平成25年度は『衝突パターンの予測と衝突原因の把握』を個別の研究テーマとして掲げて研究を行ってきた.しかしながら,これまで行ってきた実験は問題の規模や海域の環境という観点では非常に簡単化されている. そこで平成26年度は,これまでの研究によって構築された海上交通アセスメントツールの雛型を実用レベルに引き上げることを目標とする.具体的には,船舶数や海域形状を現実的な状況に近づけて実験を行う.これらの実験を通じて,何らかの不具合を生じた場合には,適宜システムの修正を行うこととする.
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次年度の研究費の使用計画 |
物品購入などでの予算超過が発生しないように調整した結果,わずかに残金が発生した. 物品費に加算して使用する.
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