研究実績の概要 |
本研究では、避難行動において重要な要素の一つである人間に着目し、身体的な相違の他に、マルチエージェントシステムを用いて、心理状態や避難時の情報提供などによる避難行動の違いを考慮したシミュレーションの検討を行った。具体的には、数千人規模の建物からの避難行動をマクロレベルで扱うのではなく、危険がある状況でも家族の救出に向かうなどの愛他行動など、人の行動に影響を及ぼす要因を考慮した避難シミュレーションシステムを構築し、評価を行った。 構築したシステムでは、 (1) 避難者の個々の心理状態をBelief - Desire - Intentionモデルで表現する, (2) 老若男女や身体的な差異に加え、性格や家族関係などの人間的・社会的属性を表現する、(3) 避難誘導案内や周囲の人の会話による動的な情報共有による避難行動の変化など従来研究では取り扱われていなかった機能を実現した。 実際の5階の建物や地下街から1,000人規模の避難行動シミュレーション結果と過去の災害報告書にある事例との比較により、試作したシステムの機能を確認した。さらに、人による実環境での避難訓練などが困難な様々な状況で、東日本大震災を例にした人の行動パターン、誘導放送の伝達度、異なる誘導内容などをパラメータとする避難シミュレーションを実施した。そのシミュレーション結果を元に、ISOの基準に規定されている避難に必要な時間を尺度に、避難者にどのような内容をいつ提供する事により効率のよい避難誘導ができるかを検証できる事を示した。 シミュレーションに対するパラメータを評価する事が、防災計画の評価に役立つ事を示す他に、本シミュレーションシステムの活用方法として、モバイル端末に、災害・非常時の状況に応じた避難誘導情報を提示するシステムを提案し、実用面での具体的な実例を提案した。
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