研究課題/領域番号 |
24500213
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
中島 弘史 工学院大学, 情報工学部, 准教授 (40613641)
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研究分担者 |
山口 泰弘 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (60376473)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 睡眠時無呼吸症候群 / 無呼吸低呼吸指数 / 呼吸音 / いびき |
研究実績の概要 |
2014年度の成果は、1.睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者の呼吸音データの収録、2.呼吸音に基づく無呼吸低呼吸指数(AHI)の予測モデルの構築、3.AHI予測モデルにおける環境音の影響調査、4.研究成果のWEBによる公開、の4点である。1~3については、日本音響学会秋季研究発表会および電子情報通信学会の応用音響研究会にて成果を発表した。以下に各成果の概要を述べる。 1は、共同研究者の山口康弘医師が行った。データの記録は、事前に了解を得たSASの入院検査患者について、睡眠時ポリグラフ検査に平行して呼吸音をICレコーダで記録することで行った。現在までに、患者11名のデータを得ることができた。患者のAHIは16~66であり、軽度から重度の幅広く分布している。現在も継続的に呼吸音データの収録を実施している。 2は、実際に睡眠中の呼吸音からAHIを予測するモデルを構築したものである。具体的には、呼吸音からノイズ除去等の様々な処理を経て、いびきの区間を抽出し、いびきといびきの間の区間(休止区間と呼ぶ)についての、休止区間長を変数とした発生頻度のヒストグラムから、AHIを予測するモデルを構築した。その結果、平均相対誤差40%程度で、呼吸音データのみからSAS患者のAHIを予測できる事を明らかにした。 3は、いびき以外の音(物音や会話、機械音など)が、AHIの予測精度に及ぼす影響を調査したものである。会話以外の環境音がAHI予測に及ぼす影響は小さい事がわかった。今回は入院検査時のデータを用いたが、実際の利用時には、1人での就寝が想定されるため、会話自体がなく問題ないもと考えられる。 4については、WEB上に本研究の成果を公開した。生データ(呼吸音データ等)については、データサイズが大きく、利用に注意が必要なため、メールで依頼があったユーザに、その利用用途などを聞いた上で、データを送付する形とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度の当初の目標は、2013年度に構築した睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者の呼吸状態を自動判定するアルゴリズムの精度評価および改良である。これに対し、2014年度には、睡眠中の呼吸音のみから、SAS患者に対する「呼吸状態」だけでなく、臨床検査で用いられる病態の指標である無呼吸低呼吸指数(AHI)を予測するアルゴリズムを構築し、その精度評価および改良を行った。従って、当初の目標を達成したと言える。しかしながら、現在のアルゴリズムによるAHIの推定誤差は、2%~70%と患者によってばらつきが大きく、患者数も11名と少ない。そのため、アルゴリズムの改良に関してはまだ十分ではなく、サンプル数を増やすとともに、大きな誤差が生じないようにアルゴリズムを改良する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は、本研究課題の最終年度となる。当初の予定通り、現在の無呼吸低呼吸指数(AHI)予測アルゴリズムをスマートフォンアプリとして実装する。またアプリ化に平行して、AHIの予測精度をさらに向上させるためにAHI予測アルゴリズムの改良を行う。改良に必要な睡眠時の呼吸音データを今年度も継続して収集する。具体的には、さらに多くのAHI患者のデータを収集すとともに、入院検査を受ける患者以外のデータ(軽症者および正常者)のデータも収集する。研究を遂行する上での課題は、人手の不足である。呼吸音データの収集にあたり、個人情報が含まれていないか聞いてチェックを行うのに多くの労力がかかる。またAHIの推定誤差が高い原因を明らかにするためには、誤検出されたいびき区間や休止区間の音データを詳細に解析する必要がある。具体的には、対象の区間を実際に試聴したり、スペクトログラムを見て、その原因を特定する必要があり、やはり多くの労力がかかる。そのため来年度も、特許申請等に係る予算を削減し、収集したデータの確認や加工、分析を行うためのアルバイトを雇用し、人件費・謝金として利用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、コンピュータ関連備品(10万円)と学会発表についての旅費(20万円)で合計30万円を利用する予定であったが、実際に備品と旅費による支出は約10万円であったために差異が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の予定では、2015年度は、前年度までに開発したアルゴリズムをスマートフォンのアプリとして実装と対外発表のみに予算を利用する予定であった。しかし、前年度までに開発したアルゴリズムでは睡眠時無呼吸症候群を判定するためには精度が十分でないことが明らかになったため、アプリ化と対外発表に加えて、精度向上のためのさらなるデータ収集およびアルゴリズムの改良のために予算を利用する予定である。
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