研究課題/領域番号 |
24500226
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
片岡 章俊 龍谷大学, 理工学部, 教授 (20528682)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 音声プライバシー / 多点制御法 / マスキング / スピーカアレー |
研究概要 |
本研究は複数のスピーカから発せられる音が特定の方向のみで受聴でき、それ以外の方向では音の内容が聞きとり難い音の再生方式を実現することにより音のプライバシーを保護することが目的である。 薬局や銀行でWeb会議装置によって手軽に、他の場所にいる薬剤師やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談できるようになってきた。場所や時間を気にしないで利用できるが、日本のオフィス環境では必ずしも囲まれた部屋が用意されているわけではなく、簡易に仕切られたエリアで個人的なことを話さなくてはならず、プライバシーが守られているとは言い難い。人の発する声を消すことはできないが、スピーカから出る相手の音声を本人にのみ聞こえるように制御できれば、会話の内容は一部保護することができる。 今年度は、所望の方向では音声をきれいに受聴でき、目的方向外の位置では音量が小さく、音声が変形してその内容が聞き取れない再生方法を実現するため、音声信号をいくつかのサブ信号に分解する信号分解法について検討した。 音声そのものを完全なランダム信号に分解すると位相のわずかなずれで目的方向でも高品質に合成できないため音声の残差信号レベルでの分解方法を検討した。残差信号の分解方法として、(1)残差信号をガウス雑音信号とのマッチングによってサブ信号に分解する方法、(2)残差信号を完全なランダムな信号に分解する方法、(3)直交性を利用する方法、(4)ガウス雑音信号とランダムな信号を組み合わせる方法について、目的方向/目的外方向での音圧、音声品質などを計算機シミュレーションで検討・評価した。その結果、ガウス雑音信号とランダムな信号を組み合わせる方法が最も目的方向における再生音声の品質が良く、目的方向外での会話の内容理解度の困難であることを明らかにし、音声信号の分解を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、所望の方向では音声をきれいに受聴でき、目的方向外の位置では音量が小さく、音声が変形してその内容が聞き取れない再生方法を実現するため、次の3段階での検討を計画している。(1)目的信号(音声)を複数のサブ信号の和で表現し、目的信号に比べてそれぞれのサブ信号が聞き取り難くなる分解法(信号分解法)を検討する。(2)目的外エリアにおける目的信号の完全な抑制は困難であることが予想されるので、目的外エリアに漏れる目的信号(音声)を環境音でマスキングする方法について検討する。(3)多点制御法、信号分解法および環境音による統合方式を検討する。 本年度は、第一段階として、音声信号をいくつかのサブ信号に分解し、複数のスピーカで再生し、目的の方向では高品質に合成でき、それ以外の方向では本来の音声の内容が分かり難くなる音声信号の分解方法の検討を行った。音声は複数のランダム信号の和によって表現することができる。しかし、適切な方法が確立していない。音声は制約を設けずランダム信号に分解すると、信号それぞれの振幅がしばしばAD/DA変換器に用いられる16ビットを超えることがあるためスピーカからの再生には適さない。 本研究は、音声そのものを完全なランダム信号に分解するのではなく、音声の残差信号レベルでの分解方法を検討した。音声信号を合成フィルタと残差信号に分け、残差信号をいくつかのサブ信号に分解する。検討の結果、残差信号の分解方法として、残差信号を完全なランダムな信号に分解し、ガウス雑音信号と組み合わせることにより、目的方向での再生音声の品質が良く、目的方向外での会話の内容理解度の困難である分解信号を得ることができた。今後、音声をサブ信号に分解する方法を確立したので、目的方向外でより聞こえ難くする環境音によるマスキングについて検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
目的外エリアに漏れる目的信号(音声)を環境音でマスキングする方法について検討する。多点制御法を用いることにより、目的方向で音声をはっきり再生でき、目的方向外ではその音圧を抑圧することができる。しかし、目的方向外の音圧を完全にゼロにすることはできないため、振幅は小さいが音声の内容を聞き取ることができる。そのため、目的方法外エリアにおける目的信号の漏えいを他の信号(環境音)によるマスキングによって、その内容が聞き取れないようにする方法について検討する。しかし、環境音(妨害音)をスピーカから放出すれば、目的方向外において目的信号の受聴を妨げることはできるが、目的方向でも妨害されることになる。この点を考慮して今後、本研究では次の2つの方法について検討する。(1)用いる環境音についてその種類とレベルについて検討する。まず、目的音声を効果的にマスキングする環境音について、既存の環境音の効果を調べる。次に、信号分解法で分解されたサブ信号が、目的方向外で位相ずれした状態で合成された音声に対してどのような環境音が効果的であるか検討する。(2)多点制御法を用いて、目的方向外では漏れている目的音声を環境音によって妨害し、目的方向では環境音によって目的音声が妨害されない制御について検討する。つまり、目的方向に行う制御とは逆の制御を行うことによって、目的方向外では通常の再生を行い、目的方向外では抑圧された環境音とできる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を進める上で策定した計画において、処理を行うコンピュータおよび音声データベースなどの購入を計画している。また、音声の品質を評価するため、一般人による評価試験を実施する費用を計上している。小型スピーカは過入力などによる破損を想定して、各年度に計上している。さらに、本研究成果を広く公開するため、国内では音声・音響研究者が多く参加する日本音響学会全国大会での発表を、海外では各分野の国際会議での発表を予定しており、その費用を計上している。
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