研究課題/領域番号 |
24500226
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
片岡 章俊 龍谷大学, 理工学部, 教授 (20528682)
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キーワード | スピーチプライバシー / 多点制御法 / マスキング / 環境音 / 信号分解法 |
研究概要 |
本研究は複数のスピーカから発せられる音が特定の方向のみで受聴でき、それ以外の方向では音の内容が聞きとり難い音の再生方式を実現することにより音のプライバシーを保護することが目的である。 薬局や銀行でWeb会議装置によって手軽に、他の場所にいる薬剤師やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談できるようになってきた。場所や時間を気にしないで利用できるが、日本のオフィス環境では必ずしも囲まれた部屋が用意されているわけではなく、簡易に仕切られたエリアで個人的なことを話さなくてはならず、プライバシーが守られているとは言い難い。人の発する声を消すことはできないが、スピーカから出る相手の音声を本人にのみ聞こえるように制御できれば、会話の内容は一部保護することができる。多点制御法を用いれば目的方向で音声をはっきり再生でき、目的方向外ではその音圧を抑圧することができる。しかし、目的方向外の音圧を完全にゼロにすることはできないため、振幅は小さいが音声の内容を聞き取ることができる。 今年度は、目的方法外エリアにおけるこの目的信号の漏えいを他の信号(環境音)によるマスキングによって、その内容が聞き取れないようにする方法について検討した。環境音をスピーカからそのまま放出すると、目的方向外において目的信号の受聴を妨げることはできるが、目的方向でも妨害されることになる。本研究では、次の2点について検討した。1)多点制御法を用いて、目的方向外では漏れている目的音声を環境音によって妨害し、目的方向では環境音によって目的音声が妨害されない制御について検討した。目的方向に行う制御とは逆の制御を行うことによって、目的方向外では通常の再生を行い、目的方向外では抑圧された環境音とできる。2)用いる環境音についてその種類とレベルについて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、所望の方向では目的音声をきれいに受聴でき、目的方向外の位置では音量が小さく、目的音声が変形してその内容が聞き取れない再生方法を実現するため、次の3段階での検討を計画している。1)目的信号(音声)を複数のサブ信号の和で表現し、目的信号に比べてそれぞれのサブ信号が聞き取り難くなる分解法を検討する。2)目的外エリアに漏れる目的信号を環境音でマスキングする方法について検討する。3)多点制御法、信号分解法および環境音による統合方式を検討する。 昨年度は、第一段階として、音声信号をいくつかのサブ信号に分解し、複数のスピーカで再生し、目的の方向では高品質に合成でき、それ以外の方向では本来の音声の内容が分かり難くなる音声信号の分解方法の検討を行った。音声の残差信号を完全なランダムな信号に分解し、ガウス雑音信号と組み合わせることにより、目的方向での再生音声の品質が良く、目的方向外での会話の内容理解度の困難である分解信号を得ることができた。 今年度は、第二段階として、目的方法外エリアにおける目的信号の漏えいを環境音によるマスキングによって、その内容が聞き取れないようにする方法について検討した。環境音については、目的方向外で通常の再生を行い、目的方向外では抑圧された環境音が再生されるように制御を行う方式を導入した。これにより目的方向外の目的音声は環境音にマスキングされ、その内容が聞き取れなくなった。目的方向へわずかに漏れる環境音を打ち消すために、目的方向に対して逆相の環境音を放射することにより、目的方向における目的信号の品質を維持することができた。環境音として用いる雑音については、複数人の会話が最も効果的であり、白色雑音、ピンク雑音などの環境音は音声と聞き分けが比較的容易なため、会話の内容の隠ぺいには十分ではないことがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
多点制御法、信号分解法及び環境雑音による統合方式について検討する。まず、信号分解法によって分解されたサブ信号それぞれに対して多点制御法で制御する方式を検討する。聞き取り難くなったサブ信号が多点制御法でその音圧を小さくすることで、より判読し難くなることが期待でき、その効果を検証する。しかし、信号分解法で分解されたサブ信号が多点制御法で処理されるため、目的方向においてサブ信号がうまく合成されない可能性がある。目的方向の音声の劣化が予想されるため、音声劣化の補正方法についても検討する必要があると考えられる。次に、これらの方法に環境音付加を用いて、音声がより聞こえ難くなる方式を検討する。用いる環境音の種類とレベルについて検討する。目的音声を効果的にマスキングする環境音について、既存の環境音の効果をさらに詳細に調べる。次に、信号分解法で分解されたサブ信号が、目的方向外で位相ずれした状態で合成された音声に対してどのような環境音が効果的であるか検討する。環境音が大きすぎると他に迷惑となるので、目的方向では聞こえ、目的外方向では聞こえ難い状態を目指す。すべての方式の統合が必ずしもうまくいくとは限らないので、これらの検討結果の内、多点制御法と環境音付加、あるいは信号分解法と環境音付加などの組み合わせについても、その効果を検証・比較する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究は計画通り進捗しているが、検討を進める上で購入を計画していたコンピュータおよび音声データベースなどの機材を、これまでの検討過程では既存のものを用いていたため当初購入予定時期より遅れている。また、小型スピーカは過入力などによる破損を想定していたが、これまでのところ想定よりも破損が少ないため購入が遅れている。 今年度は、スピーカの数を増やし規模を大きくして検討を行う予定であるため、コンピュータやスピーカの購入などを行う予定である。また、より詳細に音声の品質を評価するため、一般人による評価試験を実施する際、人数や回数を増やす予定である。さらに、本研究成果を広く公開するため、音声・音響研究者が多く参加する日本音響学会全国大会での発表を促進する予定であり、研究の一層の促進に費用を用いる予定である。
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