本研究の目的は、複数のスピーカから発せられる音が特定の方向のみで受聴でき、それ以外の方向では音の内容が聞きとり難い音の再生方式を実現することにより音のプライバシーを保護することである。 所望の方向では音声をきれいに受聴でき、目的方向外の位置では音量が小さく、音声が変形してその内容が聞き取れない再生方法を実現するため、これまで、目的信号(音声)を複数のサブ信号の和で表現し、目的信号に比べてそれぞれのサブ信号が聞き取り難くなる信号分解法を提案、その効果を確認した。次に目的外エリアにおける目的信号の完全な抑制は困難であるため、目的外エリアに漏れる目的信号を環境音でマスキングする方法について検討した。 今年度は、環境音の品質改善を目的とした多点制御構成法および、これまでに検討した多点制御法、信号分解法及び環境音による統合方式について検討した。目的方法外エリアにおける目的信号の漏えいを環境音によるマスキングによって、その内容が聞き取れないようにする方法は有益であるが、多点制御法によってその再生方向を制御しているため、再生時の周波数特性が変化し、環境音の音色が変化してしまう。そのため環境音を再生するフィルタ構成を検討し、2つのフィルタ群を用いて異なる再生方向に環境音を再生することで、目的方向への環境音の漏えいは少なく、それぞれの方向に対する周波数特性を改善して環境音の自然な再生を実現する方法を考案した。また、信号分解法と環境音を組み合わせることにより、目的方向外ではより会話の内容が聴き取り難くスピーチプライバシーの保護には非常に有効であることを確認した。しかし、信号分解法は目的方向外における音声の明瞭度を低下させるが、音圧のレベルは上昇する。環境音も周囲の騒音レベルを上昇させるため、周囲の音環境としては必ずしも望ましくない。今後、目的方向外の音圧レベルを低下させる検討がさらに必要である。
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