研究課題/領域番号 |
24500233
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
竹本 浩典 独立行政法人情報通信研究機構, ユニバーサルコミュニケーション研究所 多感覚・評価研究室, 研究員 (40374102)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 音声生成 / ソプラノ / 声道 / 声帯振動 / ホルマント調整 |
研究概要 |
本年度は、当初の予定通り4名のソプラノ歌手を被験者として、声の高さを変化させたときの歌唱中の声道形状の変化をMRIで計測し、ホルマント調整の生理的なメカニズムについての検討を行った。 ソプラノ歌手は、安定して声帯を振動させるために、声帯の基本周波数(f0)が上昇すると、これに合わせて声道の第1共鳴(R1)周波数も上昇させる。従来、R1の上昇は口の開きで実現されているといわれていたが、MRI画像の解析から、これに加えて咽頭腔と喉頭腔のなす角を小さくしていることも明らかになった。音響感度分布解析によって、この操作は効率的にR1周波数を上昇させることが明らかになった。 さらに、声門効率を向上させる、つまり大きな声を出すために、ある音高では声道の第2共鳴(R2)周波数を声帯の第2高調波(2f0)とも一致させることが知られている。しかし、R2周波数を調整する生理的なメカニズムは不明であった。MRI画像と音響感度分布の解析結果から、口腔と口唇部がR2周波数への感度が高く、これらの部分の形状を制御することによって、R2周波数を効率的に調整していることが明らかになった。 また、ジラーレという歌唱技法は、高音域でまろやかな発声をするための技法であるとされているが、音響的な機能や生理的なメカニズムは未解明であった。しかし、本研究の結果によれば、ジラーレとはR1をf0に、R2を2f0に調整することのできる音域で、意図的にR2周波数を下降させることで2f0のパワーを減少させてまろやかな聴感を生み出す技術であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では、ソプラノ歌手が音高を上昇させる際に、どのような生理的メカニズムにより声道の第1共鳴(R1)周波数を上昇させるかという部分に着目して研究を進めていた。これにより、R1を制御する生理的メカニズムを明らかにすることができた。しかし、声門効率について検討を進める過程で、R1のみならず、声道の第2共鳴(R2)周波数を制御する生理的メカニズムも明らかにすることができたので、当初の計画以上に進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず数回のMRI実験および音声収録実験を行って、ソプラノ歌唱時の声道形状について補足的なデータを収集する。また、実時間の動画撮像も試みる。現在、実時間の動画撮像法では、ある断面において1 cm のスライス厚の画像を1 秒間に5枚撮像することが出来る。ところが、ソプラノ歌手の喉頭腔付近は非常に小さいため、1 cmのスライス厚では空間分解能が不足し、喉頭腔をほとんど見分けることが出来ない。そこで、1秒間に撮る画像枚数を減らして、スライス厚を0.5 cm 程度にすることを試みる。もし、音高を変えてゆくときの声道の動画像が得られれば、声道形状の制御のメカニズムをより正確に解明することが出来る。 次に、得られた声道形状から声道内の圧力と体積速度分布を求めて喉頭腔への音響エネルギーの集中率を計算する。歌唱ホルマントの生成には、喉頭腔への音響エネルギーの集中が必須であることが知られている。そこで、声道全体に存在する音響エネルギーに対する喉頭腔に存在する音響エネルギーの比率を計算する。喉頭腔は長さにして2 cm 程度、声道長の20-30 %程度である。ゆえに、音響エネルギーの集中率が20-30 %程度なら、歌唱ホルマントを生成できないと結論することが出来る。この集中率が音高によってどのように変化するかも検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の予算執行の結果、次年度使用額として33,004円が残存した。当初は、MRI実験によって得られた大量の画像をデータベースとして管理するソフトウェアを購入する予定であった。しかし、該当するソフトウェアの見積額が52,500円であったため、次年度分の助成金と合わせて次年度に購入することとした。
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