研究課題/領域番号 |
24500236
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
金子 寛彦 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (60323804)
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研究分担者 |
和田 佳郎 奈良県立医科大学, 医学部, 特任講師 (80240810)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 垂直視差 / 頭部運動 / 眼球運動 / 行動 / 空間知覚 / 視方向 / 奥行き運動 / 頭部傾斜感覚 |
研究実績の概要 |
垂直両眼視差は,理論的に視方向の手掛かりとして利用できる.しかし,これまで報告された研究では,垂直視差は対象の知覚的方向にほとんど影響を与えないことが示されている.一方,知覚と行動における視覚情報処理の違いが近年明らかになっており、両眼視差においても知覚と行動において処理の違いがある可能性がある.そこで研究では,垂直視差がその方向情報に基づいて行動応答に与える影響について明らかにすることを目的としている. 平成26年度においては,まず,前年度から引き続いて,視覚対象に向けた頭部ポインティング応答において,垂直視差が与える影響を調べる実験を行った.実験1では画面上で一定の垂直視差を持つ刺激を用い,実験2では頭部方向に応じて逐次変化する垂直視差を持つ刺激を用いた.その結果,ポインティングターゲットの周囲の垂直視差が頭部ポインティングに影響することが明らかになった.この研究については,原著論文として投稿し刊行された. 次に,対象の垂直視差の周期的変化が,頭部方向の制御に与える影響を調べる実験を行った.刺激は,正弦波状に変化する垂直視差を持ち,変動周期,振幅等を刺激変数とした.12名が被験者として実験に参加した.解析方法として,周波数解析,正弦波関数のフィティングによるパラメータの検討などを用いた.その結果,1~2名の被験者においては,垂直視差変動を持つ刺激を観察した場合に無意識的な頭部運動が生じたが,ほとんどの被験者については有意な頭部運動応答は見られなかった.この研究についてはデータ収集を完了しており,論文投稿ずみである. さらに,垂直視差変化を持つ刺激を観察した際の水平眼球運動を計測する実験を行い,垂直視差が幾何学的に妥当な水平眼球運動に寄与する可能性を見いだした.この研究については,明確な結果を明らかにするため,データ収集をさらに進める予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請の提案時に挙げた平成26年度における当初目標は,前年までに得られたデータに基づいて垂直視差と眼球・頭部・身体運動の関係を定量的に示すモデルを構築すること,そして,得られた知見を踏まえて,立体画像・映像の安全性および臨場感の向上のための提案をするというものであった. 本年度の研究において,定量的なモデルの構築や応用に向けた提案までは行っておらず,立体画像・映像のための提案もするには至っていない.これは,当初目的に達していないことからは,研究がやや遅れている部分である.実際,このような大きな目標を3年の研究で達成するのは困難であり,計画段階で多少過信があったかもしれない. しかし,実験から予想をしなかった興味深い結果が得られたため,それを明確にするための新たな実験を行い,当初計画より多くの実験を行ってデータを収集し,多くの知見が得られた.その点については,予定以上の成果が上がったと考えている. 以上のような結果をトータルで見ると,モデルの提案に関しては道半ばであるものの,多くのデータを収集して予想しなかった知見が得られ,研究の新たな展開の可能性も示唆されたこともあり,「概ね順調に進展している」という評価が妥当だと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,まず,平成26年度に行った研究の一つである,「対象の垂直視差の周期的変化が頭部方向の制御に与える影響を調べる実験」の成果を,原著論文として公表する.この件については,既にデータ収集,論文執筆を完了し,国際英文誌に投稿ずみである.次に,やはり平成26年度に行った研究である「垂直視差変化を持つ刺激を観察した際の水平眼球運動を計測する実験」の成果を論文としてまとめる予定である.この件は,補足的なデータを収集する必要があるが,実験については概ね完了しており,論文執筆を進める段階である. 今後の研究の進展としては,垂直視差を変数として,頭部運動と眼球運動を同時に測定する実験を進めることにより,眼球・頭部・身体の運動を制御する上での垂直視差の役割を明らかにしていきたいと考えている. 最終的には,取得した全てのデータを加味して,当初予定していた課題である「垂直視差と眼球・頭部・身体運動の関係を定量的に示すモデルの構築」を行う予定である.さらに,そのモデルとこれまでに得られたデータに基づき,当初予定していた最終的な課題「立体画像・映像の安全性および臨場感向上のための提案」につなげて行きたい. ただしその課題は,今年度より採択された基礎研究(c)「立体視の個人差の類型化とメカニズムの解明」とも大いに関連するため,その研究から得られる知見とも結びつけて進めて行きたいと考えている.その中で特に目指したいのは,観察者が静止した状態で立体映像を観察する場合のみに関するものではなく,近年進展が著しい,観察者が能動的に動いて立体映像を観察するVRシステムや,受動的に動く環境の中で立体映像を観察するモーションライドや車載機器のようなシステムにおける,臨場感,安全性の指針を確立することである.その際には,医学者である研究分担者とよく議論し,生理学的,医学的知見をよく考慮して検討する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
成果の取りまとめが遅れ,平成26年度中に予定していた論文執筆および投稿が間に合わなかったため,そのために確保していた費用を繰り越すこととした.その論文に関しては年度末に執筆を終え,平成27年4月に投稿を完了した.
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次年度使用額の使用計画 |
繰越額は,上記の投稿論文の刊行完了までにかかるに費用に充てる予定である.具体的には,投稿論文の英文校正費用,投稿・掲載料,投稿に際してかかる記憶媒体等の消耗品費,投稿論文内容の打合せのための旅費等に充てることを予定している.
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