研究課題/領域番号 |
24500250
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
田中 元志 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50261649)
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研究分担者 |
新山 喜嗣 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90208116)
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キーワード | 事象関連電位 / P300 / 主観評価 / 好み / 画像 / 視線 |
研究概要 |
画像を用いた主観評価について,事象関連電位(ERP)で好みを抽出するための課題と,シャツのデザイン評価を例とした好み評価時のERPに関する検討を中心に行った。なお,被験者を用いた実験は,秋田大学の倫理審査委員会の承認を受け,すべての被験者から同意書を得て行った。以下にまとめる。 (1) 好みと対応よくP300を検出できる評価課題を検討するため,評価語「とても好き,次に好き,好き」に対応する食品画像の枚数を変えて好み評価させたときのERPを測定した。その結果,評価語に対応する画像の枚数やその組合せによって,被験者はその評価,あるいは中間の評価語の評価時にP300面積が小さくなった。また,とても好きなもの1枚,次に好きなもの1枚を被験者に評価させる(選ばせる)課題がよいことが示された。 (2) 形状と大きさが同じで色のみが異なるTシャツの画像5枚を作製し,評価語「とても好き,次に好き,その他」で好み評価させたときのERPを14 chで測定した。その結果,PzでのP300成分に1つのピークが観測された。P300振幅は「とても好き」の評価時に最も大きく,「その他」の評価時に最も小さくなった。一方,文字の書体等が異なるシャツを評価させた結果では,P300成分に2つのピークが見られた。P300面積(加算平均波形の250~600 msの積分値)を抽出した結果,「とても好き」の評価時に最も大きく得られた。 (3) 3D画像を用いた脳波測定システムを構築し,予備実験を行った。 (4) 視線情報をERPと組合せて利用するための基礎検討として,寿司画像を2 枚同時に提示して,「好き」と「嫌い」の評価語でそれぞれ選択評価させたときの視線停留時間分布を求めた。その結果,拡散的探索の割合が特定的探索の割合より大きく,特定的探索において選択された画像への停留の割合は選択されない画像に対して大きいことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
事象関連電位(ERP)を主たる指標として好み評価を定量化するために,被験者に与える評価課題と,デザインに対する好み評価時のERPに関する検討を中心に行い,以下の成果を得た。 (1) 評価語に対応する食品画像の枚数を変えて好み評価させたときのERP測定から,評価語と画像の枚数の組合せによって中間の評価語のP300面積が小さくなる場合があることを明らかにした。また,好みなどの違いを検出するための有効な一つの方法として,単純に,とても好きなもの1枚,次に好きなもの1枚を評価させる(選ばせる)課題がよいことを示した。 (2) 色が異なるシャツ,プリントされた文字の書体等が異なるシャツについて好み評価させたときのERP測定の結果,これまでの食品の好み評価時と同様に,P300振幅および面積は「とても好き」の評価時に最も大きく得られた。デザイン評価においても,被検者が最も好きなものをERPで識別できる可能性を示した。また,色を対象とした場合は,色の好みが結果に現れる可能性が明らかになった。 (3) 3D画像を用いた脳波測定のため,ノイズを発生しない偏光メガネ式の3Dモニタ(47型)を利用した画像提示システムを構築した。予備実験から,視距離を画面高の4.5倍に決定した。また,被験者への負担軽減の点から,休止画像にも3D画像を用いることとした。3D画像を用いた評価実験の準備ができた。 (4) 好み評価時の視線測定の結果から,評価によって視線の停留時間が異なり,拡散的探索の割合が特定的探索の割合より大きく,特定的探索においては選択された画像への停留の割合は選択されない画像に対して大きいことが示された。新しい知見が得られた。しかし,「選択」という行為の影響も考えられ,主観評価と視線停留時間の関係について検討していく。なお,ERPとの同時測定については,脳波へのノイズ対策が大きな課題のままである。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,画像などを用いた主観評価,特に,好みについて,いくつかの追加実験(評価時のERP測定)を行い,蓄積した多くのデータを整理し,主観評価時のERP特徴量を数値的に抽出する方法を検討し,その確立を目指す。また,評価時の視線を測定し,視線情報も利用した確度向上の方法を検討する。被験者としては,本学学生を含む健康な成人の方々(18歳以上)を予定している。なお,被験者を用いる実験においては,秋田大学倫理委員会の承認を受け,被験者から実験内容について同意を得た上で測定を行う。 (1) 評価対象(評価内容)を変えた場合について,好み評価時のERP測定を行う。ERP測定においては,25年度までの国際10-20法に従った14部位での測定で評価による違いが比較的見られたFz,Cz,Pz,Oz,F7,F8を主な測定部位とする。提示画像には,従来の2D画像に加え,3D画像を用いる。 (2) これまで得られたデータを基に,主観評価と対応よくERP特徴量を数値的に抽出する方法(評価課題)を検討し,提案する。提案課題を用いて,評価対象を主観評価させたときのERPを測定して,結果を評価し,改良を加える。 (3) 評価時の視線の動きを測定して,視線停留の継続時間と位置を抽出し,主観評価との関連を検討する。また,既存装置でのERPとの同時測定の方法(ノイズ対策)を継続して検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画より少し安く購入できた物品があったこと,旅費もパック旅行の利用などで少し節約できたこと,が挙げられる。 平成26年度の消耗品費に含めて使用する。平成26年度も,画像などを用いて主観評価させたときの脳波および視線を測定する。これまで使用してきた脳波測定システムのデジタイザ(A/D変換器)が64 bit OS未対応であるため,現有の64 bit OS対応デジタイザ(現在は4 ch)に2 ch高速絶縁モジュール2台を追加して合計8 ch(脳波は6ch)で測定することを計画している。そのモジュール2台と,脳波測定用の電極とペースト,評価対象提示システムを含む測定システムの改良や周辺装置作製などに必要な電子部品類,ソフトウェアとその保守費,ケーブル類,およびデータ記録用のメディア(HDD等)などを消耗品費から支出する。 研究成果公表のための経費は,旅費および学会参加費・論文別刷り代から支出する。また,主観評価試験(脳波・視線測定)には被験者の協力が必要不可欠であり,被験者謝金から支出する。
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