ストレスフルな現代社会において孤独や不安,不満を感じている人は多い.これらの感情を昇華できずに蓄積させてしまうと,やがて様々な問題行動として表出し,時には殺傷事件や自殺等につながる.このような深刻な状況を回避・改善するために,心の状態を回復する作用を持つ癒しを生成し,社会や個人に提供することが有効であると考えられる.そのためには様々な刺激によって生成される癒しを解明する必要がある.本年度は触覚刺激に着目し,触覚刺激による癒しをfMRI(functional magnetic resonance imaging)を用いて解明することを試みた. 提示する触覚刺激として、複数のポケットのついたエプロンを作製して.4種類の素材と,3種類の表面性状を組み合わせた計12種類の直径50mmの球を製作し,アンケート調査によって最も癒されたあるいは癒されなかった物体をそれぞれ2種類,計4種類を選定し,実験に使用した. そして刺激による癒し状態の脳賦活パターンに違いがあるかを,先行研究のエピソード想起による癒し状態の脳賦活パターンと,触覚刺激による癒し状態の賦活パターンを比較することによって検討した.一方の入力刺激の脳賦活パターンで,分類モデルを作製し,それを用いてもう一方の入力刺激の癒されている状態,癒されていない状態の分類を行った.それぞれの実験において分類精度の高い領域を抽出し,比較を行った結果,触覚刺激による癒しの分類精度と,エピソード想起による癒しの分類精度の高い領域は,異なっていることがわかった. すなわち、触覚刺激により癒されている状態における脳の賦活領域を同定することにより,前帯状皮質と中側頭回が癒しに深く関係している領域であることがわかった.また,脳賦活パターンにより,触覚刺激による癒し状態を有意に分類することはでき,入力刺激により癒しが発現するまでの経路は異なることが示唆された.
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