研究課題/領域番号 |
24500259
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北星学園大学 |
研究代表者 |
後藤 靖宏 北星学園大学, 文学部, 教授 (30326532)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 音楽認知 / 聴取環境 / 潜在記憶 / 視聴覚相互作用 |
研究概要 |
基礎と応用分野を互いに関連づけながら、次年度の基盤となる知見を得るための研究を開始した。そのために、1:音楽認知に関わる潜在記憶メカニズム解明、2:音楽による情動喚起の過程に発生する生理的変化と、そのメタ認知との関連づけおよび3:次年度実験の予備的調査という下位目標をたてた。1.と2. は現有する設備で対応可、3. は新たに眼球運動測定装置の購入が必要となった。詳細は以下の通りであった。 1:申請者が実験的な証明に初めて成功したリズムの潜在記憶に関する研究をさらに発展させるものであった。これまでの研究で、音楽認知には“拍節的体制化”の処理が必要であり、音列の“拍節性”という心理的特性が音楽の記憶と密接な関係があることを明らかにしてきた(後藤, 1998)。一方、「音高」、「音価」および「音色」という物理的特性がリズムの知覚的プライミングに関わる成分であることも明らかにしている。そこで、今年度は自身が開発した loudness judgement taskによって両者の関係を精査した。 2:音楽による情動喚起の過程を知覚的体制化の過程との関連で調べるものであった。本研究では、情動の喚起は音楽による進行につれて実時間的に刻々と推移していくものとして捕らえ直し、楽曲を聴取させながら心拍、呼吸数、皮膚温及びG.S.Rを測定した。同時に言語的指標による自己評価も併せて採取することで、情動変化を自己認知した時点と、生理的な変化が生じた時点との時間的関係を把握できるようにした。 3:次年度の準備として音楽聴取空間を仮設営し、眼球運動測定装置を使用して聴き手の注意の向け方を探索的に調査した。こうした事前準備を入念に行うことにより、次年度の研究がスムーズに開始できるとともに、極力当初の計画通りに研究が遂行できることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ予定どおりの進捗状況であった。したがって、ここで特記すべき項目はなく、唯一予定から遅れ気味である眼球運動測定について述べる。 眼球運動の測定については、当初年度内に予備的調査を行うことを計画していた。しかしながら、購入を予定していた眼球運動測定装置が旧製品から新製品に移行する時期と重なったため、製品の購入(より厳密に言えば製品の“納入”)が遅れた。業者都合とはいえ、納品が遅れたことによって予備的調査が完全に終わらなかったのは反省点である。 それ以外については、1)「リズムの潜在記憶」に関する実験的検討と、2)音楽による情動喚起過程に関し、知覚的体制化の観点から実験的に調べる、の2点については、計画どおりに実行できた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画の中核となる年度となる。聴覚情報処理である音楽認知過程と、視覚的情報処理としての聴取環境との関係を検討するために、これまでの研究(後藤, 2005c)によって性質の異なることが保証されている2種類の空間(「心理的緊張を生起させない空間」と「作業目的の機能的空間」)を設営する。その中で聴き手に音楽を自由に聴取させることによって、生態学的妥当性の高い聴取空間でのデータ収集が可能になる。この環境を利用して以下の2つの実験を行う。 1つ目は、設営した空間それぞれに、性質の異なる「照明」を組み合わせ、その中で音楽聴取をさせて人間の生理的心理的変化を調べる実験である。具体的には、光色(白熱色/蛍光色)と照明方法(直接/間接)を操作し)、その中で被験者に音楽を聴取させ、音楽聴取前、聴取中および聴取後における生理的反応と心理的反応の変化をそれぞれ調べ、両者の対応を検討する。この時に操作する音楽の変数は「拍節性」、「テンポ」、「音圧」および「感情価」である。模擬的に空間を仮設営し、言語指標を用いた予備的調査を開始したところ、同じ音楽でも、聴取する空間が異なれば音楽および空間に対する印象が変化することを示唆する結果が得られつつある。 2つ目は、音楽と照明の“同期”を操作した際の注意の分配について調べる実験である。具体的には、図2空間内の複数位置に照明を設置し、それらの照明の「点滅」および「光色変化」と、音楽の「拍節的アクセント」の同期性を操作する。音楽はBGMとして使用するために、教示でそちらに注意を向けさせることができない。そこで、指標として眼球運動を測定することが必要になる。これにより、どの照明に注意が払われているかを音楽の経時的な経過とともに調べることができるようになり、聴覚情報である音楽の認知に、視覚的情報がどのように関わっているのを明らかにすることができる。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし。
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