研究実績の概要 |
本研究では,“こころの動き”が,知覚感受性や記憶の程度に影響を与える脳内メカニズムを明らかにする事を目的とした.具体的には,報酬や罰を伴う嗅覚学習行動が,辺縁系皮質の神経ネットワークの,どの部位に,どのような機能変化を生じさせるのか,その機能変化は海馬や扁桃体の情報伝達パターンにどのような影響を及ぼすのかという問題を明らかにする為に,①嗅覚学習行動実験系,および②単離脳を用いた ex vivo 脳機能解析システムを新たに構築し,これらの活用により,情動や報酬予測行動を支える嗅覚神経回路の探索と動作機構の解析を行うことを目指した. 本研究のうち,嗅覚行動解析では,新たに構築した実験系を用いて,過去に報告されているラットやマウスだけでなく,モルモットでも,呈示された匂いを塩化リチウムの腹腔投与による胃部不快感と結びつけて記憶できることが明らかになった.また,単離脳電気生理および光計測実験系では,現在までに,動物の学習行動の差を脳機能差として抽出するには至っていない.これは,現在までの実験では,外側嗅索への電気刺激により惹起される神経応答解析しか行えていない事に起因しているのではないかと考えている.一方,生まれて間もないげっ歯類へウレタン麻酔を投与すると,神経変性が生じる可能性が示唆されている.我々はこの知見に着目し,構築した単離脳実験システム系が,この神経変性を評価できるかについて調べた.ウレタン麻酔投与後1週間後の幼若モルモット単離脳において,電気刺激による嗅覚系神経経路の活動パターンを解析した結果,PairedPulse 応答に,対照群と比較して有意な変化が観測でき,さらに,この機能変化が抑制系の発達異常による可能性が示唆された.この結果は,神経回路の変性が顕著に生じていれば,我々の構築した系でも,明確な差が見いだせる事を示している.
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