研究課題/領域番号 |
24500286
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
伊藤 浩之 京都産業大学, コンピュータ理工学部, 教授 (80201929)
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研究分担者 |
圓山 由子 京都産業大学, コンピュータ理工学部, 講師 (80723353)
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キーワード | 視覚皮質 / 多細胞データ / 変動性 / 時空間活動 / 自発発火 / 相関 / 発火数相関 |
研究概要 |
初年度には、麻酔下ネコの視覚皮質において、方位バー刺激提示により誘発される神経細胞の時空間活動データの記録を行った。本年度は、これらの多細胞データの統計解析を行った。特に、刺激提示期間中でのスパイク発火率の試行変動性の解析を行い、「同一刺激の複数試行回提示においても個々の細胞の発火率は大きな統計的変動を示す」という従来の報告を確認した。近年は、これらの発火数変動が細胞間で相関していることが注目されており、その相関係数の大きさに関して異なる報告が共存し、混乱した状況となっている。我々は記録したデータに対して、系統的な統計解析を行い、以下の特性を発見した。 1. 細胞ペア間の発火数変動相関は異なる細胞ペアでは大きなばらつきがある。全サンプルペアに対する相関係数の分布の平均値は0.06と小さいが、その分散は大きいため、他の研究報告のように平均値だけで特性を議論することは適切では無い。 2.同時記録された細胞集団においても、異なる細胞ペアでは正負の符号の異なる相関を示し、空間的にも不均一な複雑な構造を持っている。この特性は、発火数変動相関が上位皮質からのtop downフィードバックに由来する大域的な共通入力を原因とするという従来の仮説とは矛盾する。 3.細胞ペア間の発火数変動相関は固定的な特性ではなく、記録した全ペアの20%程度のサンプルは異なる方位バー刺激に対して有意な変動を示す。相関の符号すら変化するケースも存在する。 これらの発見からは、皮質での細胞間の発火数変動相関は共通入力を原因とする固定的・解剖学的な現象ではなく、より大規模な細胞ネットワークの活動を反映したダイナミックな現象であるという仮説を提案した。これらの研究成果は学術論文として公表した。また、北米神経科学会においても口頭発表の機会を与えられ、海外の研究者に伝達することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視覚皮質から同時記録された複数細胞間の発火数変動の相関に関する解析結果を学術論文(European Journal of Neuroscience)として公表することで、中間的な成果を確保することが出来た。この論文をまとめるために多くの統計解析法の試行錯誤を行い、最終的に有効な時空間解析法を確立することが出来た。この解析法を最終年度に再開するネコ視覚皮質からの自発発火活動実験で得られるデータに適用することにより、課題研究の主題である皮質内での内的ダイナミクスの定量化を進めることが出来る。
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今後の研究の推進方策 |
視覚皮質から同時記録された複数細胞間の発火数変動の相関に関する解析結果は学術論文として公表した。これらの細胞活動は視覚刺激により誘発されたものであるが、本課題研究の主題である皮質内の内的ダイナミクスの研究のためには、視覚刺激を提示しない状態での自発発火活動の特性の定量化および刺激誘発活動との比較が必要である。最終年度である平成26年度にはネコ視覚皮質からの記録実験を再開し、同時記録されている複数の細胞の刺激提示下および自発活動時の活動を連続して記録する。これらの多細胞データに対して、今までの研究で確立した統計解析を適用し、二つの条件下での発火数変動の相関を比較する。これらの統計解析により、皮質内の内的ダイナミクスが持つ特性が、外部刺激とのインタラクションによってどのように変化するのかを議論する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は課題研究の中間成果の公表を確保するために、論文作成のためのデータ解析、論文執筆、専門雑誌への投稿、レフリーコメントに対応した再投稿などに多くの時間を費やした。このため、当初予定していた神経データ記録実験を実施せず、この研究のために計上していた消耗品予算および人件費の執行が一部に留まった。 使用計画の概要は、物品費(実験のための薬品、ガス、医薬品など)407,150円、旅費(国内)200,000円、旅費(イスラエル滞在)400,000円、人件費・謝金(大学院生動物飼育補助、資料収集)300,000円、その他(視覚刺激呈示システムの改善作業の外部委託)300,000円を計画している。次年度は最終年度であることから、国内外の研究者に課題研究の成果を説明し、議論を行うことを通じて、今後の研究の発展の方向を検討したいと考える。次年度の下半期は大学の自由研究員の身分を取得できるため、教育の義務が免除され、研究活動に集中することが出来る。この機会を用いて、脳皮質からの多細胞活動同時記録データの時空間解析で多くの優れた研究成果を発表しているイスラエルHebrew大のVaadia教授の研究室に1ヶ月程度滞在し、集中的な議論を行う計画である。この渡航費および滞在費の使用を計画している。
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