最終年度は昨年度に論文発表を行った視覚皮質における発火数相関の研究成果の拡張を行った。発火数相関に関する研究は近年多くの報告がなされており、これらの研究との関係を検討し、我々が発見した現象の一般性を考察した。皮質からの多細胞記録データの時空間解析で優れた研究成果を発表しているイスラエルHebrew大のVaadia教授の研究室に1ヶ月に渡り滞在し、本研究課題で得られた研究成果に関して議論を行い、多くの意見を得た。Hansel教授とは興奮と抑制がバランスしているBalanced Networkでの発火数相関現象の数理モデルの可能性に関して意見交換を行った。また、Weitzmann研究所のArieli教授からは、視覚皮質での自発発火における発火数相関に関して、光学イメージングデータの説明を受け、我々の結果との整合性を確認した。ラットの聴覚皮質活動に関して、Luczakらが刺激誘発活動も自発活動も共通の細胞間の発火数相関の拘束が存在することを報告しているが、我々の報告と共通の特徴を持っていることが分かった。ただし、彼らの報告では、発火数相関の刺激依存性の有無に関しては明記されていない。複数細胞活動間での発火数相関による拘束は、近年のBrain-Machine-Interfaceにおける運動皮質神経活動パターンの学習においても重要な役割を果たしている可能性が報告されており(Sadtler et al.)、皮質活動における一般的な現象であることが理解された。全研究期間を通じて、麻酔下ネコの視覚皮質において方位バー刺激提示により誘発される神経細胞の時空間活動データの記録を行った。系統的な統計解析の結果、皮質での細胞間の発火数相関は共通入力を原因とする固定的・解剖学的な現象ではなく、より大規模な細胞ネットワークの活動を反映したダイナミックな現象であるという仮説を提案した。
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