研究課題/領域番号 |
24500297
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
水島 久光 東海大学, 文学部, 教授 (30366075)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 映像 / アーカイブ / 地域の肖像権 / 景観史 / 社会史 / コミュニティ・デザイン / 住民参加 / デジタル公共圏 |
研究概要 |
本研究は、映像アーカイブについて、地域における活用という観点からその社会的存在意義に光を当てるものである。具体的な課題を抱える複数の地域(北海道夕張市、横浜市、長野県上田市、埼玉県川口市、宮城県気仙沼市等)におけるアーカイブ実践プロジェクトを通じて、ボトムアップによる新たなコミュニティ・デザインモデルの創出を図るとともに、理論的には「景観(風景)」を生態学的単位として捉えるアプローチから、社会史と公共圏論の接続を試みるものである。 初年度である平成24年度は、まず地域レベルでは、夕張市、気仙沼市、横浜市を拠点とした研究において、「認識単位としての風景」概念の析出を通じて、アーカイブ映像を地域再生に役立てるための方法論を、論文及び研究集会で発表するなど、着実に成果を上げることができた。また地域横断型プロジェクトである「パテ・ベビー」研究に関しても、資料研究が進み、映像を中心に組織されるコミュティ自体が、1930年代日本の「地域を横断する文化の生態系」として形成されていたことを立証する論文を発表することができた。 実践的成果としても、2009年以来続けてきた「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」における上映会も5年目となり、キュレーションの方法論が形づくられるとともに、新たな市民との協働によるアーカイブ構築の先行例として注目を集めるようになった。また気仙沼市民を対象としたNHKアーカイブス所蔵映像を用いたワークショップを開催することができ、「地域の肖像権」概念の有効性を具体的なケースに照らして検証する場が得られた。 上田市、川口市のプロジェクトについては、各々主体的に研究・実践を進める各地のパートナーとの交流・研究会を進める中で、現在、得られた知見の他地域への援用可能性を検討している段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度は、当初各地域の個別プロジェクトを充実させていくことを目標としていた。この点については地域ごとに多少の差はあるが順調に進んでいる。むしろ25年度以降の課題としていた「プロジェクト間の連携・総合、理論の精緻化」について、いくつかの論文に着手することから前倒しで取り組みが始まっており、その点において研究は当初の研究計画以上に進展したといえよう。 課題として列挙した諸項目について言えば、1)分析的課題と2)認識論的課題については、特に夕張の事例と気仙沼(三陸)の事例を横断する概念装置として「風景」を用いて応え、これを「地域の肖像権」概念を介してキュレーションの方法論に昇華させることで、4)のコミュニケーション論的課題にも応える段階に既に至っている。 またこれらの作業を通じて「小規模なアーカイブ」間、あるいは「大規模アーカイブ」と「小規模アーカイブ」の連携を如何に進めるかという新たな具体的な課題も顕在化し、やや遅れていた3)技術論的課題についても、今後その検討を通じて展開が見えるところまで進展させることができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、24年度の進展状況を踏まえ、夕張市と気仙沼市のプロジェクトを次の段階に進め、地域内外のこれまで手がついていなかった新たなアーカイブとの連携を広げ、アーカイブが新たな表現活動や地域再生の具体的取り組みに結びついていくように実践領域を拡張する。そのために横浜市の研究拠点機能を強化し、各地のプロジェクトの準備室的機能を果たすとともに、その成果の集約、そして横浜のアーカイブ資産への援用を具体化する。 一方で研究面では、アーカイブ連携の理論化を進め、まだほとんど注目されていない(トップダウンではない)ボトムアップによるアーカイブ構築の方法の精緻化を図り、それに併せて技術的要件も検討する。「パテ・ベビー」研究においては、24年度に著した研究概論(論文)に基づく各論を進め、あわせて発掘・保存の為の体制づくりを行う。さらにこれらの研究成果を踏まえて、25年後半からは、「アーカイブ」の担い手研究に力を入れ、MLA連携(博物館、図書館、公文書館連携)の実践例の収集と分析を行った上で、各地域の住民が主体的に「アーカイブを育てていく」ための具体的要件を探り、整えていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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