研究課題/領域番号 |
24500297
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
水島 久光 東海大学, 文学部, 教授 (30366075)
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キーワード | 映像 / アーカイブ / 集合的記憶装置 / 記憶と記録の生態学 / 社会史 / コミュニティ・デザイン / 市民参加 / デジタル公共圏 |
研究概要 |
本研究は、映像アーカイブについて、地域における活用という観点からその存在意義に光を当てるものである。具体的な課題を抱える国内複数の地域それぞれで行われているアーカイブ実践プロジェクトの支援を通じて、ボトムアップによる新たなコミュニティ・デザインモデルの創出を図るとともに、理論的には記憶と記録の関係を生態学的に捉えるアプローチから、社会史と公共圏論の接続を試みるものである。 二年目である平成25年度は、夕張市、気仙沼市ほか東北の被災地域、横浜市、神戸市等を中心に具体的アクションを進めた。夕張市ではダム開発によって翌26年春には水没する大夕張地区を対象としたアーカイブ構築プロジェクト。気仙沼市を中心に、東北10市町を対象にした定点観測プロジェクトも開始。またこれらの知見を横浜市民と共有し草の根的なアーカイブ活動の推進に資する研究会を開いた。またこれまでの研究から得られた知見を3つの論文にまとめることができた。 その中で核となる論点として提示したのが「アーカイブとアーカイブをつなげる」コンセプト。ここから新たな具体的なアクションが生まれた。第一に全国に散らばる1930年代のパテ・ベビー資料研究を結びつける活動。神戸映画資料館での大量のフィルム発見を機に、資料連携をサポートするデータベースの構築を始めた。第二に国レベルの大型アーカイブと小さなアーカイブの連携を図る活動。NHKアーカイブス所蔵映像の活用に関するフィジビリティスタディを、夕張映像他を対象に進めた。第三に映像他の資料を市民参加のコミュニティ・デザインに活用する実践とサポートシステム(アプリ)開発を大夕張地区の資料や仙台のNPOと連携して検討した。第四にそれらの成果を全国のアーカイブ研究者間で共有するための「大学・地域連携シンポジウム」を横浜・神戸で開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
プロジェクト各々を支える理論的な視座が確立され、それをもとに、既存の活動を発展させるとともに、それらを結んでいくアクションが構想され、実際に着手するところまでできたことは大きな進展であるといえる。 前年度の理論的な主題であった「風景」と「地域の肖像権」の関係が、「記憶の生態学」と「集合的記憶装置」の検証によって、ダイナミックなものとして論じることができるようになった点がポイントであり、そのことによって本研究のゴールが、「アーカイブとアーカイブをつなげる」、すなわち連携の方法論を具体的に提示することであることが明確に意識された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度となる平成26年度は、25年度に着手した新たな具体的なアクションを、目に見える「かたち」に仕上げることが目標となる。(1)パテ・ベビー資料データベースの整備、(2)大夕張プロジェクトをベースに開発するアプリの実装と活用、(3)NHKアーカイブの地域・学習活用のモデル化(事例の積み上げ)、(4)「大学・地域連携シンポジウムの継続開催と成果の公開――これらは、「アーカイブ連携の4つの位相」である「大きなアーカイブと小さなアーカイブの連携」「小さなアーカイブ同士の連携」「アーカイブとリアルな生活圏との接続」「アーカイブの自己言及的再生産」を検証する活動にそれぞれあたる。それとともに、これまでいくつかの短い論文で発表していた理論的成果をまとめ、単著に発展させる準備も進めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度末(2月、3月)に発生したその他(委託業務など)の支払いによって消耗品購入などで消化できない端数が生じた。 その他経費(主に消耗品購入)に組み入れて使用の予定。
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