本研究は、映像アーカイブについて、地域における活用という観点からその存在意義に光を当てるものである。具体的な課題を抱える国内複数の地域各々で行われているアーカイブ実践プロジェクトの支援を通じて、ボトムアップによる新たなコミュニティ・デザイン/ソーシャル・デザインの創出を図るとともに、記憶と記録の関係を生態学的に捉える理論的アプローチを進化させ、新しい歴史理論と公共圏論の接続を試みるものである。 最終(平成26)年度は、北海道夕張市、東北の東日本大震災被災地域、神戸映画資料館などの各地域での実践を継続する一方で、各地域の関係を深めるアクションを複数行い、前年度に提起した「アーカイブ連携」概念を具体化していった。また前年、横浜、神戸で行った大学連携シンポジウムを、東北、九州で行うための予備調査を行った。残念ながら各地の組織の受け入れ状況が熟さず開催に至らなかったが、「連携」条件に関わる知見を数多く得られた。 これらの実践経験をベースに、この年度では横浜と新潟を拠点に研究会を開催し、理論化の作業を大きく前進させた。特に新しい歴史学(ニューヒストリー)研究の知見をアーカイブ論に援用する手掛かりとして、カルロ・ギンズブルグが提唱した「ミクロストリア」の概念に注目。実際にパテ・ベビー研究において「荻野茂二」「伴野文三郎」らの、また夕張市では「中田鉄治」の個人史と重ねる研究を行った。また地域コミュニティ、教育現場における活用方法についても理論化を進め、IT技術者の力も借りてワークショップ用のインターフェイスの開発も行った。 これらの理論研究と実践の一体となった活動を行った結果を、イメージのサーキュレーションとしてメタ理論化を進め、それをもとに国が進める「アーカイブ立国宣言」の批判的検証にまで進むことができた。
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