研究課題/領域番号 |
24500298
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | サイバー大学 |
研究代表者 |
松本 早野香 サイバー大学, 総合情報学部, 講師 (90575549)
|
研究分担者 |
柴田 邦臣 大妻女子大学, 社会情報学部, 准教授 (00383521)
吉田 寛 静岡大学, 情報学部, 准教授 (30436901)
服部 哲 神奈川工科大学, 情報学部, 准教授 (60387082)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | アーカイブ / 震災復興支援 |
研究概要 |
宮城県亘理郡山元町「ふるさと伝承館」でおこなわれている山元町の被災写真等返却の事業「思い出回収事業」の一環として、被災アルバム・アーカイブ「思い出サルベージアルバム・オンライン」を運用した。山元町で回収された被災写真のすべて、推定75万枚がデジタル化され検索の対象となったアーカイブである。写真が発見された地区、写真に写っている人、 もの、風景、できごとなどの手がかりに関する情報を入力する機能をそなえている。PCのみならず、iPadでも利用が可能である。さらに、人の顔の画像を入力すると類似する顔の写っている写真が示される顔画像検索、アルバムに含まれる代表的な写真を印刷したインデックス・カタログなど、さまざまなツールをあわせ、被災写真の返却に寄与した。返却は週5日、被災写真の返却率は推定30%程度である。 また、被災写真のつくる「つながり」だけでなく、人々のつながりを支援するこころみをおこなった。中学校の情報の授業の一環として被災写真を用いたレタッチ教室をおこなう、被災地市民のためのパソコン教室という場をベースとしてSNSなどのツールを導入する、といった活動である。その結果、被災写真の返却・ITリテラシの向上といった成果のみならず、写真を通じた家族・地域のつながりの支援、ITリテラシ学習を通じた新しいコミュニティの形成に寄与した。 以上で述べた「どのようなITをどのように運用し効果を得たか」という情報は、さまざまな地域における長期的な復興支援にとって有益な知見となりうるものであり、さらには、震災復興支援におけるITの役割を考察することにもなる。それらの研究成果は『横幹』(第6巻2号)『産学官連携ジャーナル』(第8巻8号)などで報告し、2013年秋の発行が決まっている単行本「『思い出』をつなぐネットワーク」(昭和堂)で取りまとめている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
被災アルバム・アーカイブの運用がおこなわれ、継続的な被災写真返却に寄与した。このアーカイブは手がかり情報の入力・タブレットでの利用といった、計画書に挙げた機能をそなえている。さらに、写真を探している人の顔画像を入力すると類似する写真をピックアップする顔画像検索も利用可能である。また、大量のアルバムを簡単に閲覧することができるよう、アルバムから代表的な写真を選んで集めた「インデックス・カタログ」も用いた。聞き取り調査から、顔画像検索では手がかり情報などがない写真でも見つかりやすいことなどが示され、タブレットの有効性もあきらかになった。 こうしたさまざまなツールは公共施設による週5日の使用に供され、被災写真返却に寄与した。さらに、地域の公立教育機関のすべてから卒業アルバムの提供を受け、これをデジタル化し、なくした町の人にお渡しするといった、「地域の写真の共有」もおこなっている。 これらの成果は、平成24年度の実施計画の内容をクリアしている。 さらに本研究では、山元町ICT推進事業によって実施されたパソコン教室を舞台に、地域に密着した新聞社・河北新報と協働して教育プログラムを提供した。被災写真の返却現場の調査により、多くの人がITリテラシを求めていることが示されたが、それに対するソリューションであると同時に、地域内コミュニケーションの支援ともなった。 こうした活動を通じ、ITが被災地復興に果たしうる役割として、写真返却・パソコン教室といった場による人々のつながりの支援、そのつながりをキープするツール(SNSなど)の提供、の2点が示された。どのようなITをどのように運用し効果を得たかという情報とそれに関する考察は、山元町という特定地域のみならず、さまざまな地域における長期的な復興支援にとって有益な知見となるであろう。 以上の成果から、本研究は当初の計画以上に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
被災アルバム・アーカイブを用いた被災写真の返却を継続する。また、「思い出情報」=コミュニティの記憶を集めるものである被災アルバム・アーカイブを、仮設住宅など「ふるさと伝承館」以外の場所で閲覧する機会をもうける。さらに、パソコン教室など、地域のつながりを強化する「場」づくりをおこない、SNSなどを用いてウェブ上でそれを支援する方策を探る。これらは、たとえば写真に写っているものやそこからよみがえった記憶を語りあうことで、孤立がちに暮らしている人々がコミュニケーションし、関係を維持し続ける機会となり、流されてしまった「町の記憶」を取り戻す場となるであろう。さらに、犠牲者・転出者を多く抱え、仮設住宅に移り住むなど、いわば分断された状態にある被災地域のコミュニティとしての機能を賦活すると期待される。さらに、その場でのコミュニケーションが新たな思い出として地域の人々を結びつけることが期待される。 研究の進展が当初の予定より早く、「場」づくりについては「現在までの達成度」欄で述べたとおり、すでに進みつつあることから、これを推し進める。行政や外部からのボランティアがセッティングした場に人々が訪れる形式からスタートしているが、これを、被災地域住民がみずから自分たちのための場をつくるための支援へと発展させる。また、それらを通じて「被災地域住民の主体性が担保される長期的な復興支援において、ITはどのような役割を果たしうるか」を考察、実践する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
被災アルバム・アーカイブの運用、その他付随する支援活動には、PCやプリンタ、ネットワーク資源、紙などの消耗品が不可欠である。これに500,000円程度を用いる。また、アーカイブその他がもたらすつながりの効果をあきらかにするため、あるいはより適切な運用方法を考案するため、聞き取り調査や効果の測定・推定をおこなう。また、学会等で成果報告をおこなう。これらのための旅費として、1,000,000円程度を用いる。また、作業のための人件費として50,000円程度、その他として50,000円程度を予定している。 研究代表者は予算全体の50%を執行する。研究分担者三名は16~17%ずつをそれぞれ執行する。
|