研究課題/領域番号 |
24500298
|
研究機関 | サイバー大学 |
研究代表者 |
松本 早野香 サイバー大学, 総合情報学部, 講師 (90575549)
|
研究分担者 |
柴田 邦臣 大妻女子大学, 社会情報学部, 准教授 (00383521)
吉田 寛 静岡大学, 情報学研究科, 准教授 (30436901)
服部 哲 神奈川工科大学, 情報学部, 准教授 (60387082)
|
キーワード | アーカイブ / 東日本大震災復興支援 |
研究概要 |
宮城県亘理郡山元町「ふるさと伝承館」でおこなわれている山元町の被災写真等返却の事業「思い出回収事業」の一環として、被災アルバム・アーカイブ「思い出サルベージアルバム・オンライン」を運用した。山元町で回収された被災写真のすべて、推定75万枚がデジタル化され検索の対象となったアーカイブである。仮設住宅にこれを持ち込んでの写真探しの会など、長期にわたるさまざまな運用の結果、アーカイブが人々のつながりを促すことを確認し、アーカイブの限界から補助的なツールとどのように組み合わせるべきかを検証した。同時に、復興が進む被災三年目にあって、仮設住宅・公民館等の公共施設などで「パソコン教室」「パソコン相談会」を継続的に開催することにより、町の状況や被災者がテクノロジーに求めるものについて体験的に調査した結果、被災アルバム・アーカイブは単に写真のアーカイブであるにとどまらず、被災地域住民自身のつながりづくりや、外部に向けての情報発信に用いる方向で拡張され得るものであるとの推測に至った。そこで、アーカイブ拡張のための調査として、町の記録の担い手となりうる人々の思い・リテラシー・需要について前述の教室・相談会で聞き取り調査を実施し、また、町の復興の記録の所在を確認した。その結果のひとつとして、災害臨時放送局「りんごラジオ」が町の人の声をふくめた山元町の復興記録を大量に有していることが示唆された。 以上で述べた成果の全般については、2014年2月発行の単行本「『思い出』をつなぐネットワーク」(昭和堂)にて報告した。とくに「パソコン教室」「パソコン相談会」での成果については2013年社会情報学会シンポジウムで報告の上、論文にまとめたものが2014年6月発行「社会情報学」3巻2号に掲載される予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
被災アルバム・アーカイブの運用がおこなわれ、前年度に引き続き、継続的な被災写真返却に寄与した。この「返却」には地域のすべての公共教育機関と協働し、希望するすべての卒業生に卒業アルバムを渡す活動など、物理的な写真を持ち主に返す以上の、ITを活用しなければ可能にならなかった「思い出の返却」が含まれている。また、単行本の出版・学会シンポジウムでの報告・論文誌への掲載により、非学術関係者をふくむ社会への研究成果の報告も実施した。これらの成果は25年度の実施計画の内容をクリアしている。 さらに、25年度で本格化させたITリテラシを身につけるための場づくりでは、地域の人々のリテラシ向上・つながりと組織化(例えば、自発的に学ぶ「パソコン愛好会」の結成)・ブログ等を用いた情報発信が観察され、また、そこに参画しながらの聞き取り調査によって、町の復興の記録全般をあつかうアーカイブ拡張の必要性と方向性が示唆された。 以上の成果から、本研究は当初の計画以上に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
被災アルバム・アーカイブを用いた被災写真の返却を継続する。震災後の時間の経過から被災写真の実物の損傷がはげしいことを鑑みて、卒業アルバムのデータから多くの人にアルバムを渡すといった、デジタル化したデータの活用をおこなう。被災アルバム・アーカイブが地域のつながりづくりに果たす役割を考察するとともに、アーカイブを用いたつながりの場づくりを継続する。 また、十年単位の長期的な復興に寄与することを視野に入れ、被災写真にとどまらない震災・復興記録のアーカイブとして拡張することを検討する(これは当初の計画からさらに発展した内容であり、本課題の期間内に達成するものとは考えていない)。町に残る復興記録にはどのようなものがあるかを調べ、それをアーカイブ化する方途を探るとともに、現在進行形で進む復興を地域の人々がどのように記録しているか、記録したいと考えているかを調査する。同時に、アーカイブを地域の人々が用いる目的(たとえば、震災・復興記録データを用いた地域内教育など)を具体化し、拡張版アーカイブの設計準備とする。方法としては被災写真返却・IT教育などによって地域のIT関連サポートを行い、アクション・リサーチや聞き取り調査を実施することが適切と考えられる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究報告の方法として当初予定していた研究費使用の学会・論文発表等のほか、平成25年度科学研究費助成事業(研究成果公開促進費)の助成を受けての出版が実現し(代表者・吉田寛、課題番号255254)、この報告については当該課題研究側の費用がゼロとなったことから、予定より研究アウトリーチに必要な費用が少なくなり、次年度使用額が生じた。 当初の予定より研究が進捗していることから、さらに発展させるために必要な現地調査等の費用に充てる。また、より積極的なアウトリーチのために使用する。
|