本研究は、福島原発事故発生後に、原発事故の状況や避難に関する情報などが、国や事業者および福島県からどのようにして原発周辺自治体に伝達され、住民に知らされていったのかについて、原発事故による避難エリアに入った自治体の防災担当部局などに聞き取り調査を行い、また関連資料や文献などを参照することで、当時の情報伝達の実態とその問題点を明らかにするものである。また本研究は、住民に対する放射線リスク情報の伝達をめぐる問題、福島県産品に発生していると言われる風評被害の実態、全国の原発周辺自治体で見直しが進められている原子力防災計画の抱える課題などの検討を行うものである。 平成26年度は、佐賀県庁、佐賀県玄海町、唐津市、伊万里市、長崎県松浦市、福井県おおい町、高浜町、小浜市、滋賀県高島市、長浜市、京都府舞鶴市の原子力防災担当部局に対する聞き取り調査を行い、福島原発事故の教訓を踏まえて原子力規制委員会から新たに出された原子力災害対策指針に基づいて、佐賀県の玄海原発、福井県の大飯原発および高浜原発の周辺自治体で見直しや策定が進められている原子力防災計画および避難計画の内容を分析し、それらが抱える課題などを検討した。福島原発事故の教訓を踏まえて、これらの原発の周辺自治体においては、通信手段の強化やオフサイトセンターの複数化が進められるなど、原子力防災体制が強化されている。しかし他方で、これらの自治体の多くは、新しい原子力災害対策指針に基づいて行われる段階的避難を多数の住民に説明し理解を得なければならないという問題、安定ヨウ素剤の配布問題、避難用のバスと運転手の確保に関する不安などを抱えている。原発周辺の自治体は、これらの問題の解決に取り組みつつ、今後も原子力防災計画および避難計画をより望ましいものに修正していく必要がある。
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