研究課題
『世界文化』『土曜日』はいずれも中井正一の主宰した雑誌あるいは新聞であるが、彼の戦前の代表作「委員会の論理」が載った『世界文化』と、多くの号で中井が「巻頭言」を書いている『土曜日』とでは、表面上中井の関わり方に差がある。さらに『世界文化』の同人はマルクス主義者と自由主義者が入り交じっていたとされるが、『土曜日』は社会大衆党寄りで、広義国防を唱える記事が多い。また『世界文化』は下部構造決定論などの教条主義的なマルクス主義に依拠した論文も多い。概ね以上の点が2012年度以来の研究を通じて分かり、研究代表者は2014年3月に刊行された『東アジアの知識人第4巻』所収の「人民戦線の人々-中井正一と仲間たち」に記した。その著書の執筆と合わせ、共同研究の作業として2013年度、広告までをも含めた両媒体の各記事をテーマや言及されている国、キーワード、スペースを入力することで上記図書に記された知見を定量的に示す準備作業を行った。なお以上に示した『土曜日』と『世界文化』の党派色の違いの背景も探る必要を感じた。そこで2013年度は中井の二人の「後見人」を絞り込み、その動きを探る作業を行っている。一人は『土曜日』発行を中井らに強く働きかけその手助けをし、戦後の中井の尾道での文化運動でも尽力した住谷悦治である。「後見人」のもう一人は『世界文化』同人の新村猛の父親、新村出である。新村は中井が戦中帝国学士院から資金援助を受ける際、また戦後、国立国会図書館副館長就任時に、それぞれ推薦状を書いている。今回、研究分担者安光が中井が新村に宛てた未公刊の書簡を発見した。これら『土曜日』に近い後見人『世界文化』に近い後見人、双方と中井との関係を示す新しい資料を合わせ見ることで、中井における『土曜日』と『世界文化』の位置づけの違いと共通性を、最終年次に、定量分析と合わせ、定性的にも探っていく準備を整えた。
2: おおむね順調に進展している
「研究の目的」に照らし、おおむね順調な成果が得られたと考える。「中井正一と『美・批評』『世界文化』『土曜日』-定量的、定性的手法による研究」が研究課題である。これらのうち中井正一の事実上主宰した雑誌『世界文化』ならびに新聞『土曜日』の定性的分析を2012年度に行い、2013年度は昨年度定性分析した点を定量的に裏付けるために、アルバイトを雇い入力作業に努めた。最終年次に2013年度に入力したデータを集計し、『世界文化』の前身誌である『美・批評』の定性分析、さらに2013年度に得た新資料の分析並びに、関係者へのインタビューへと展開すれば、研究の目的は達成できる。【研究実績の概要】に書いた研究成果の中心部分については「『講座東アジアの知識人』全五巻、有志社」の第4巻『戦争と向き合って-満州事変~日本敗戦-』の「第2編.社会主義の思想」「第4章 人民戦線の人々」として研究代表者後藤が記し、2014年3月に刊行された。また共同分担者安光は、『世界文化』の有力同人新村猛の父親出の基礎的な研究をし、今後新村猛の観点からこれら研究課題に挙げた媒体を捉えるべく、準備作業をしていて、新村出記念財団にて中井の未公刊手書き資料を発見した。また我々の成果ではないが、2014年3月に『京都大学文書館研究紀要』に「中井正一関係資料」が掲載され、中井の原資料が入手可能な状況となった。研究分担者の京都大学の白井と同志社大学の岡部にこれらの資料の探索を後藤と共に行って貰い、さらに【研究実績の概要】に書いた、岡部の集めた住谷悦治関係の資料と合わせることで、研究は充分に展開される。研究課題に掲げたメディアについて研究代表者後藤はいままで中井正一及び『世界文化』同人並びに『土曜日』の共同編集人の視点からのみ捉えがちであったので、新村、住谷の視点を含めて捉えることは有益である。
2012年度は、文献資料の収集並びに文献の定性分析が主体であり、2013年度に、定量分析への入力作業を行い、関連資料の収集を行った。2014年度は『美・批評』の分析と『美・批評』『世界文化』『土曜日』関係者へのヒアリング調査を進める。なお、《『美・批評』『世界文化』『土曜日』のデータシート作りとコンコーダンス分析、内容分析》として当初、『美・批評』『世界文化』『土曜日』のOCR 読み込み及び読み込みデータの修正作業を目指していたが、旧漢字旧仮名遣いにおいて、OCR 読み込みによる自動的な分析は困難であり、なおかつ2014年3月に刊行された『東アジアの知識人第4巻 戦争と向き合って』所収の「人民戦線の人々-中井正一と仲間たち」に研究代表者が記した定性的な分析内容についての定量的実証と、それを新資料による定性分析の結果と合わせ見ることが生産的であると判断している。以下の目的にかなうような入力作業をほぼ済ませているので、それに合わせた集計作業が、定量分析における残りの用務となる。(1)目次兼索引データベース作り並びに分析として、キーワードの使われ方の一覧を作り、使われ方を比較する。(2)各種内容分析として随伴分析、好意・非好意の分析を行う。さらにこれらに初年度に行った定性分析の結果を組み合わせる。《『美・批評』『世界文化』『土曜日』の関係者へのヒアリング調査》では、中井や『世界文化』同人の遺族や関係者へのヒアリング及び資料借用を行い、京都大学文書館所蔵の中井関連文書の調査をする。これらの調査により、『美・批評』『世界文化』『土曜日』での同人・執筆者の論点の拡散・収斂状況や相互の影響関係が明らかになる。それにより同人がこれらの媒体で何を学んだかが分かり、中井の「媒介者」としての位置づけ、捨て身のミッテルの媒介の意味が分かる。
2012年度に購入した資料の読み込みとそれに基づく研究代表者による定性分析に大幅な時間を要し、それに基づく定量分析ならびに未公刊資料の収集ならびにインタビューに取りかかるのが遅れたのが大きな理由である。しかし定量分析は順調に進めており、また、未公刊資料その他重要資料の書誌情報も研究分担者の尽力により明らかになっているので、2014年度は定量分析、資料収集インタビューの旅費等、経費のかかる用務に重点的に時間と経費を割く用意はできている。研究分担者岡部によって示された住谷悦治、和田洋一ら、中井正一を取り巻く同志社関係の人物についての資料の書誌情報・所在情報並びに2014年3月に発行された『京都大学文書館研究紀要』第12号の「中井正一関係資料」に掲載された情報に基づく文献の調査に必要とされる旅費と複写依頼に多くの研究費を割く。また関係者へのインタビュー調査に多くの時間と旅費を充てる。また定量分析のためのアルバイト謝金に多くの資金を充てる。
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