本研究の目的は,楽曲を,作曲過程の意思決定の連鎖によって記述する表現モデルを構築し,複数の楽曲の関係性を表現すること,そして作曲者および曲調と用いる理論の違いが作曲過程に与える影響を解析すること,である.特に,楽曲がどのように作成されるかの途中過程を表現することで,作曲の意思決定過程に基づく楽曲の表現方法の構築と,演奏家の解釈への影響の解析を目的としている.これまでに作曲家に依頼した5曲の楽曲以外に,新たに1曲の作曲および作曲過程の記述を行なった.そして,これまでに生成した作曲過程の記述内容の検証を行なった.これらの楽曲から得られたデータを用いて意思決定のモデル化を行なった.楽曲の意思決定構造はハイパーネットワークで記述され,意思決定の類似度に基づく類似した楽曲部分の検出が可能となる.この手法を用いることによって,類似構造を持つ楽曲の部分を作曲家へフィードバックでき,さらには演奏者へ提示することで,より表現力の高い演奏の実現を支援できる.これまでの分析に基づき,より柔軟な記述が可能となる非階層構造の記述モデルを考案した.複数の視点を内在でき,利用者の要求に応じて適切な視点で表現することができる.演奏家が作曲の意図を解釈する場合でも,作曲家と同一の視点では捉えないことが,調査によって明らかになった.一方,同一利用者でも複数の視点を用いる場合がある.いずれの場合も,異なる視点間の相違点を定量的に提示できれば有用である.これまでに複数の視点に基づく表現間の関係性を定量的に評価する方法を提案した.また,利用者に依存する視点の違いについて解析するために,作曲家と演奏家に焦点を当て,それぞれが用いる視点を明確にした.その上で,作曲家と演奏家の視点の差を定量的に解析した.
|