昭和初期から中期にかけて発刊された地名辞典等の資料に掲載されたタイの地名のデジタルデータ化は前年度まで一通り終了していたが、不十分であったデータのスクリーニング作業を継続して進めた。また、公開されている外邦図データベースを活用して大正期に相当するタイ東北部の地名を収集した。 ここまでの作業の結果、特に戦前に発行された地名辞典や地図に記載された地名情報について、現存する多数の村落の歴史の長短を知る貴重な資料となることや、過去の行政上の中心地の変遷について示唆を与える資料となることを確認できた。一方で、地名の変遷を確定するためには、特に記載の位置情報についての精査が必須であることも判明した。 以上を踏まえ、タイ東北部の一部地域について位置関係の精査を進め、全般的な傾向として、メコン河に近い地域では当時として充分な位置精度での記録が多いものの、メコン河から離れた地域では相当の乖離が現在地との間に見られることを確認した。この点については国際会議および国内での研究会において報告を行った。外邦図や地名辞典における地名表記には多くの誤記や揺れがあり精査作業が煩雑になる一方で、別名を多数収録した地名辞典の存在が地名の変遷を追う一助となった。 本年度後半からは地名履歴データベースを公開する枠組みとしてトピックマップを活用する検討を開始し、専門家の協力により暫定版ながらWeb閲覧が可能なトピックマップアプリケーションを開発した。地名と位置の精査を進めるほどに安易なデータベース化を行うことを控えるべき実態があり、地名データを包括的に地名履歴込みで収録することは実現できていないが、精査済みの約500地点については地名履歴を確認することが可能である。また一連の過程で外邦図上の地名位置の大幅な乖離について一定の傾向を見出しつつあることから、この点について近く国際会議で報告する予定である。
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