これまでの実験では,ハトに明るさの弁別を訓練したあと,パックマン型誘導図形を内向きに配置した内部領域の明るさをどのように判断するかテストしたところ,物理的な明るさよりも暗く判断していることがわかった。さらに,これが明確な輪郭を伴った錯視であるかを調べるため,ハトに三角形や四角形を標的とする視覚探索課題を訓練したのち,探索場面の前にヒトではカニッツァ錯視が生じる図形をプライムとして呈示したところ,探索の促進効果はセッション間で一定しなかった。この点,さらなる検討が必要である。 26年度は,種間比較としてキュウカンチョウがカニッツァ錯視を知覚しているかオブジェクトベースの注意の現象を利用して調べた。キュウカンチョウにおいてはハトとは異なり,オブジェクトベースの注意研究により,体制化された図形の「まとまり」に対して注意が賦活することが示されているが,個体数を増加させてこの現象の頑健性をまず確認したところ,標的刺激の視認性に反応時間のパタンが大きく左右されることが示された。手がかりと同じオブジェクト内に呈示された標的に対する反応時間の短縮(オブジェクト内利得)が見られた個体について,誘導図形の配置により主観的輪郭を形成しうる刺激をオブジェクトとし,オブジェクト内利得が見られるか調べたところ,この個体ではテスト期間中を通じて安定したオブジェクト内利得がみられ,キュウカンチョウについては明確な錯視効果が示された。ただし,個体差については今後の検討が必要である。
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