研究実績の概要 |
1秒や2秒といった比較的短い時間長を区別する時間知覚の脳内メカニズムについて、ニホンザルを使って調べた。これまでの我々を含む動物実験では、視覚だけ、もしくは聴覚だけを刺激呈示に使ってこなかったが、そもそも時間長は動物が知覚できる感覚種に依存しない物理量であるので、異種感覚刺激で時間呈示をする実験を行うことで、時間知覚のより本質的な理解に近付けると考え、本研究課題では異種感覚刺激をもちいて時間知覚の脳内メカニズムを研究してきた。時間長を与える視覚刺激には時間的に変化せず色のついた図形(緑色の四角形)を、聴覚刺激には2,000Hzの純音をそれぞれ採用した。サルが取り組む課題の流れは次の通り。ボタン押しで開始、1番目の刺激呈示(C1、視覚刺激か聴覚刺激)、1秒の遅延(D1)、2番目の刺激呈示(C2、視覚刺激か聴覚刺激)の順に呈示。その後、1秒の遅延(D2)を経て、青色と赤色の四角形を左右に並べて同時に表示し、長い方の時間長の視覚刺激にあたる色を選択すると正解としてジュースがもらえる。ニューロン活動は、前頭前野より細胞外記録法により単一ニューロンレベルで記録した。実験の結果、刺激呈示期間のC1とC2では、視覚刺激のみに応答するニューロンが多く、聴覚刺激のみや、視覚と聴覚の両方に応答するニューロンは少なかった。一方、遅延期間のD1とD2では、視覚と聴覚の両方に応答するニューロンが多く見出され、また、直前の刺激呈示時間長に依存して発火頻度が変わるニューロンも少なからずあった。つまり、前頭前野は時間長の知覚について、視覚呈示期間では視覚優位に関わり、呈示された時間長の情報保持に関わると思われる遅延期間では視覚と聴覚を区別せず情報処理していることがわかった。なお、3年目の研究成果は、第37回日本神経科学大会(横浜)や、第92回日本生理学会(神戸)で発表した他、査読付き原著論文も掲載された。
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