研究課題/領域番号 |
24500335
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
梅村 浩之 独立行政法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 主任研究員 (10356587)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 多感覚統合 / 因果推論 / 触覚 / 視覚 / 単眼立体視 / 陰影 |
研究実績の概要 |
平成26年度は因果推論が知覚に影響を及ぼす事態として,触覚情報と視覚情報の統合についての実験的検討を行った.これまでに3次元力覚生成装置を用いて仮想的に面を押し込む場面を構築し,能動的に面を押し引きする動作と出っ張ったり凹んだりする視覚情報との統合について検討し,両眼立体視で視覚情報が与えられる場合には,触覚情報は統合されないという結果が得られている.一方,その以前の研究において受動的に力が与えられる場合には,触覚情報に視覚情報が引っ張られることも示してきている.これらは能動的に押し込む場合には予測が働き,両眼視差情報に含まれる定量的な奥行き量とのずれを検出しやすいためではないという仮説のもと,単眼の場合にはこの定量的な奥行き量が得られないため,受動的な条件と同様に統合が促進されるのではないかと考え,これを実験的に検証した.これまでは単眼立体視情報の強さを制御できず,統合の促進は観察されなかったが,26年度は陰影の方向を変化させることで,視覚情報における単眼立体視てがかりの強さ(=奥行き方向の知覚されやすさ)を制御した.その結果,能動的な行為においても視覚的な奥行き方向の促進を示す結果が得られた.これは,因果関係を基にした多感覚情報の統合が,お互い(この場合は視覚情報だけだが)が持つ情報の質により変化することを示す結果であった.また,前年度行った自己運動を知覚する上での時間的なずれの影響についての成果発表や,物体の位置が行動生成に及ぼす影響についての検討結果についての成果発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に懸案事項としていた単眼立体視情報の強さの制御などを行うことが可能となったため,仮説を支持する結果を得ることができた.また,これまでに行ってきた実験について国際学会での発表や論文の投稿といった成果の発信に結びつけられた.今年度は初年度の出向の際に遅れが発生したため期間の延長の年度となるが,予定としていた最終年度の実験に加え,この研究期間中における当該研究分野での進歩も踏まえた実験を行っていく.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は前年度に得られた因果関係に基づく多感覚の統合過程において手掛かりの質が影響することについてのモデル化を行う.ここでは脳内での予測モデルと知覚内容の差が統合に影響を及ぼすという点が重要な点になると考えられるが,このモデル化においては情報源の一致性を推定し統合をするか否かについての過程をベイズ推定を用いてモデル化したKnillやKordingのモデル選択過程のプロセスをベースにすることで実現できると考えている.また,手掛かりの持っている情報の質による統合についてはLandyらの研究などに見られるCue promotionモデルが参考となると考えている.本モデルは定性的な説明ではなく定量的な説明を目指しており,Matlabなどを用いてシミュレーションを行っていく. また,実験として,当初計画にあったHMDを用いて衝突してくる物体を視覚的にVR呈示し,これが振動によって与えられる触覚刺激の位置・時間知覚にどのような影響を及ぼすかについての実験的検討に加え,本来の目的である因果推論が多感覚情報の統合に与える影響の検討にさらに踏み込むために,自ら生成する行為が外界の変化の原因になっているかというSense of Agency(自己効能感)が時間的な多感覚の統合に及ぼす影響についての検討を行う.Sense of Agencyは因果推論の特殊な場合だと考えられているが,その特性については未知の点が多い.ここでは実験データを収集し,その特徴を明らかにするとともに,上記の因果関係に基づく多感覚統合モデルで説明できるのかを検討する.加えて,前年度までに得られた研究については随時発表を行っていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成24年10月より1年の兼務出向を命ぜられた際,想定以上に実験遂行が難しかったことにより研究に遅れが発生した,出向と重なったため学会での発表をキャンセルすることになった,などの事情により未使用額が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額は,当初3年目に計画していた因果関係が触覚情報と視覚情報の統合に及ぼす影響の被験者実験における謝金,論文の投稿における英文校閲・掲載料,国内外での発表における旅費・参加費に充てる予定である.
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