研究課題/領域番号 |
24500336
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
馬田 一郎 独立行政法人情報通信研究機構, ユニバーサルコミュニケーション研究所多感覚・評価研究室, 研究員 (40374110)
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研究分担者 |
鳥山 朋二 富山県立大学, 工学部, 教授 (00418518)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 共同作業 / 作業環境 / 作業役割 / 主導権 / 参照基点 |
研究概要 |
初年度前半は、過去にNICTのプロジェクトで収録した遠隔共同作業課題データの整理および分析を行なった。視線および身体配置について検討した結果、共同作業時に他者への指示等主導的役割を果たすもの、実際に作業を行い環境を直接改変していくもの、という役割分担が分析の観点として重要となることが明らかになってきた。指示を行なう者は、作業環境に対しやや俯瞰的な観点を取りがちであるが、作業を行なうものは自分を参照基点とする行為者観点を取りがちである。共同作業の参加者それぞれについて、発話行動や身体行動に基づいて役割分類を行なう必要が出てきた。 上記の要請から、年度後半は多人数対話での主導権について分析を行なった。同志社大学理工学部の山本教授が日本人による日本語と英語の三人対話データを分析していたため、このデータの収集と分析に協力しつつ、対話での主導権分析のためにデータを使用させていただいた。分析の結果、特に各人の会話能力に差のある英語条件において、主導権を取る者が他の対話相手に対する発話の理解度確認のための注視を頻繁に行なうこと、それらの確認的注視は特に質問への回答・発話に対する相づち、理解困難であった場合の問い返しなどの短い発話の後に多く行なわれている可能性が強いことが観察された。山本教授の対話データでは自由対話や遭難課題などの課題対話であり、共同作業環境の情報を利用したり環境を改変していったるするものではないが、これらの知見は本課題の共同作業時の主導権保持者推定の基礎となりうると考えている。 研究発表としては、過去の共同作業課題の再分析は論文誌への投稿を目指して準備中であり、山本教授のデータを活用し分析したものについては CogSci 2013 でのポスター発表、ICMI 2013 での発表を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去課題のデータ再分析による研究発表の準備は、上記研究実績の概要に述べたとおり、参加者の役割分担を視野に入れる必要から、一部分析手法を見直す必要が生じている。このため、全データの整理には当初予定よりもやや余分な時間がかかる見通しとなった。結果として、対面共同作業時の身体行動データに関する研究発表は、次年度以降に持ち越すことになった。 その反面、役割分担を考慮に入れることによって、さらに詳細なモデル化が可能となる期待も生まれている。同志社大学の山本教授と協力して分析したデータのうち、主導権を考慮に入れた注視行動の研究結果については、既にある程度研究発表の目処がたっている。この研究結果は当初の分析予定には入っていなかったものではあるが、対話の主導者を注視行動から推定する手法を用意することができれば、今後の共同作業対話研究の基礎として効果的に活用可能であると期待している。 次年度以降は、遠隔共同作業時の作業環境の空間的特性を扱う。この際に、基礎データとなる対面共同作業での身体行動データ分析がやや遅れていることはマイナスではあるが、作業空間に対する観点設定の手掛かりが得られたことは大きな進展といえる。以上より、24年度の研究活動は、全体としてはおおむね順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、昨年度から持ち越している同志社大学の山本教授のデータを用いた対面対話での主導権に関する視線行動分析、および対面共同作業課題データの再分析を行ないつつ、遠隔作業環境を用いた共同作業対話データ収録と分析に着手する。 山本教授のデータに関しては、現在発話行為のカテゴリラベリングを行なっており、このデータを取り入れて分析することにより、視線行動のより詳細なカテゴリ分けが可能となる。こうして得られた視線行動データに基づき、富山県立大学の鳥山教授と共同で、対面共同作業課題のデータを再分析し、共同作業における注視行動に基づく主導権推定モデルの構築を進める。 上記の分析結果を踏まえつつ、富山県立大学の鳥山教授と共同で遠隔共同作業環境での対話についてデータ収録準備と分析を進める。遠隔共同作業についてもATRおよびNICTで収録済のデータを利用できるため、これを分析しつつ、モーションキャプチャーを用いた新規データの収録方針を立てる。 データ収録方針として、既に購入済みのモーションキャプチャー装置に対応した高精度の解析ソフトが発売されたため、このソフトを購入してパイロットデータの収録と分析を行なう。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度前半の視線および身体配置分析の結果、共同作業時に他者への指示等主導的役割を果たす者、実際に作業を行い環境を直接改変していく者、という役割分担が分析の観点として重要となることが明らかになってきたため、研究方針を微修正した。それに伴い、当初予定していた対面共同作業時の身体行動データに関する研究発表は次年度以降となり、出張旅費は持ち越しとなった。また、年度内に研究室の引っ越しが行なわれることに決まり、分析および実験環境の整備を次年度以降に遅らせたため、予定していた機材購入のうち、一部も次年度以降に持ち越した。 次年度以降は、分析に遅れの出ている対面共同作業データの分析について、富山県立大学との連携をよりスムーズにするため、研究室を相互訪問して緊密な打ち合わせを行なう。また規模の大きな身体行動データを共有するために、大容量のハードディスクを追加で購入し、相互の研究室に設置する。また、出張打ち合わせに使用するためにノートPCを1台購入する。 データ収録および分析環境としては、上記の「今後の研究の推進方策」でも触れた通り、モーションキャプチャーデータ解析ソフトの追加購入を行なう。現状の解析ソフトはマーカのご認識に対して脆弱であるため、データ処理に多大な時間が必要である。より高精度の解析ソフトを購入し、この問題の軽減を目指す。また、現在マーカとキャプチャースーツが不足しているため、追加で購入する。 また、CogSci および ICMI といった海外での学会発表のために、ドイツとオーストラリアへの海外出張費用を計上する。
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