(a) ランダム効果モデルにおける情報量基準の構築、(b) 一般化推定方程式におけるQIC基準の精密化、(c) 線形混合モデルにおける情報量基準の構築とその精密化、に関して次の成果を得た。 (a)ランダム効果を導入した成長曲線モデルのカルバックライプラー擬距離に基づく予測モデルのリスクの推定量として、最大対数尤度のバイアスの標本数 n が大きくなるときの漸近展開公式を導出し、1/n までバイアスを補正したAICタイプの変数選択規準を導出した。研究の過程で漸近展開公式によるリスクの近似誤差がランダム効果の分散について一様でないことが分かり、ランダム効果の分散のオーダーを O(1/√n) と仮定した上で漸近展開公式を導出したが、用いたラプラス展開手法の剰余項を詳細に吟味することで、得られた近似公式の誤差のオーダーは、ランダム効果の分散に関して一様なオーダーであることがわかり、これにより変数選択規準を導出することに成功した。 (b)指導していた大学院生により QIC基準の精密化がなされ、さらに予測誤差に基づくCpタイプの情報量規準を導出した。 (c)(a)では切片項のみを確率変数としたモデルを扱ったが、拡張として、成長曲線モデルにおいて、複数個の偏回帰係数が確率変数であるモデルの変数選択規準の導出に取り組んだ。線形混合モデルではモデルの識別性を保証するため、誤差項の分散共分散行列に何等かの構造を仮定する必要があり、本研究ではスカラー行列を採用した。心理学や教育学の分野で近年注目されている階層型線形モデルと、数学的には同一のモデルであるからである。一般の線形混合モデルでは、分散共分散行列の最尤推定量の導出は困難であるが、うまく変数変換することで、ある平方和積和行列の固有値と、残差平方和との大小関係で場合分けすることで最尤推定量や最大対数尤度が陽に書けることが分かった。
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