研究課題/領域番号 |
24500347
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
塚原 英敦 成城大学, 経済学部, 教授 (10282550)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 定量的リスク管理 / リスク計測 / リスク尺度 / 接合関数 / コピュラ |
研究概要 |
本研究の目的は,これまで研究してきたリスク計測手法に基づき,定量的に金融リスクを管理するために必要な統計モデルとデータ分析手法を開発・検討することである.その中で中心的に研究してきた歪みリスク尺度について,金融時系列データにしばしば見られる時系列的依存性を考慮に入れた上でも,その推定量の漸近正規性,そしてその漸近分散の一致推定量,さらにはブートストラップ法の正当性を示すことができたことは,実務においてもより実施可能かつ正確なリスク評価・管理を遂行できるための方法を与えるものとして重要かつ意義のあることである. バックテストは様々な金融リスクを管理するための手続き上必要な統計的手法である.これについて,バリュー・アット・リスク(VaR)に対する方法の自然な拡張が可能であることを示したが,数値実験の結果からは満足のいくものとは言えない.また,現在議論を呼んでいる問題として,VaRがバックテスト可能であるのに対して,期待ショートフォールを含む歪みリスク尺度については適切なバックテスト方法がないという議論である.これに対する根本的な疑問として,統計的決定理論の立場からの顕在化可能性(elicitability)という概念がバックテスト可能性と同等であるとみなして本当に良いのかという点がある.これは今後数理的かつ理論的に吟味したい.また,2013年2月28日に日本銀行本店で開催されたワークショップ「リスク計測の高度化~テイルリスクの把握~」に出席し,主にバックテストの手法に関してコメントを述べた.実務家の気づかない点について理論的な立場から正しい事実を認識してもらうことには意義がある. 接合関数を用いた検定を行う際に,その帰無分布を推定するためには何らかのリサンプリング法が必要となる.この目的に対して渋谷政昭氏が考案した非常に単純な方法の,漸近的正当性を部分的に示した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
歪みリスク尺度の統計的性質については漸近的,数値的にほぼ理解されたといってよいが,まだ時系列的依存性が強い場合や分布の裾が極端に長い場合の挙動はすべて解明されたわけではない.また,歪みリスク尺度に対する形式的なバックテストの統計的性質は限定的な条件の下でのみわかっているだけである.さらに,現在議論を呼んでいるのは,VaRがバックテスト可能であるのに対して,期待ショートフォールを含む歪みリスク尺度については適切なバックテスト方法がないという主張である.これに対する反論として,実施可能かつ包括的なバックテストの手法を開発することが,本研究の目的である定量的金融リスク管理のための統計モデルとデータ分析手法の開発・検討に欠かせない. 本研究のもう一つの柱である,接合関数を用いた金融時系列データにおける複数変量間の相互依存性のモデリングについては,現時点ではGARCH(1,1)モデルや簡単な確率ボラティリティモデルにとどまっている.その理由は,接合関数と所与の時系列構造の両立可能性を吟味することが思いのほか難しいことがある. また,現在調べているリサンプリング法の漸近的性質について,既存の乗数中心極限定理が適用できないことがわかり,いくつかのアプローチを検討している状況であるが,各分野の基礎知識を得るのに時間がかかっている.それに伴い,歪みリスク尺度の1パラメータ族と確率順序,それに付随するマルチンゲールに関する研究が進んでいないことも研究の達成度を「やや遅れている」とした理由の一つである.
|
今後の研究の推進方策 |
歪みリスク尺度の適切なバックテスト可能性については,顕在化可能性とバックテスト可能性との関連を強く主張しているPaul Embrechts教授をETHに訪れて議論し,何らかの明確な結論が得られるように努力する.歪みリスク尺度に関しては,上記バックテストの問題の他に,引き続き関連する資本配賦の問題やポートフォリオ最適化問題について,理論的,数値的に検証する. 接合関数を用いた,多変量金融時系列データにおける複数変量間の相互依存性のモデリングについては,国内のワークショップや研究会においてその問題の重要性を述べて,この分野の問題に関心を持つ研究者の興味を喚起し,さらには共同研究の可能性を探ることまで選択肢として考えている.そのためには,本年度採択された統計数理研究所の共同利用研究課題「接合関数の理論とファイナンスへの応用」での活動も利用していきたい. 接合関数のリサンプリング法について現在分析中の漸近挙動については,既存のものとは異なる新たなアプローチが必要であるように思われることから,その分野に詳しい研究者の助言を仰ぐ可能性も検討中である. 歪みリスク尺度の1パラメータ族と確率順序,それに付随するマルチンゲールに関する研究についても,引き続きETHチューリッヒ校のDelbaen教授と意見を交換しながら進めていく.
|
次年度の研究費の使用計画 |
計画していたソフトの更新手続きが不要になったことと,円安により航空運賃が非常に割安になったために,(B-A)の分の助成金が平成25年度にまわることとなった. 平成25年度の研究費としては,研究上必要となる書籍や文具などの物品費の他には,次のような旅費が中心となる. バックテストに関連した統計的結果を6月にNational University of Singaporeにて開かれるワークショップ“IMS on Finance: Probability and Statistics (FPS)”で発表する.また,ミュンヘンで毎年開催されているリスク管理に関する研究集会“CEQURA Conference”に出席・研究発表し,最新の研究事情について意見交換する.接合関数について,現在集中的に研究しているリサンプリング法の漸近的性質が解明され,その包括的なシミュレーション数値実験が一段落した暁には,12月にロンドンで開かれる“7th International Conference on Computational and Financial Econometrics”においてその成果を発表したいと考えている. 国内旅費として現時点では,10月末から11月初めにかけて那覇で開かれる国際研究集会“Stochastic processes & their statistics in Finance”への出席のために用いることを予定している.
|