研究課題/領域番号 |
24500347
|
研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
塚原 英敦 成城大学, 経済学部, 教授 (10282550)
|
キーワード | リスク管理 / リスク計測 / 計量ファイナンス / リスク尺度 / 接合関数 / コピュラ |
研究概要 |
主たる研究対象としてきた歪みリスク尺度については,その推定量が一致性・漸近正規性をもつことのみならず,その漸近分散の一致推定量を具体的に構成し,ブートストラップ法の正当性も示すことができた.これは実務上的確なリスク評価・管理を遂行できるための方法を与えるものとして非常に意義のあることである. 金融リスク管理において,用いたリスク計測モデルやリスク尺度推定手法が事後的に見て適切であったかどうかを検証することは必須である.このための統計的手法はバックテストと呼ばれるが,これについて,バリュー・アット・リスク(VaR)に対する方法が歪み尺度に対しても自然な形で拡張可能であることを示した.シミュレーション実験の結果では,まだ限定的ではあるが,バックテストのための条件付き推定が可能であるGARCHモデルの場合にはうまくいっていると考えられる. 現在議論を巻き起こしている問題として,VaRがバックテスト可能であるのに対して,期待ショートフォールを含む歪みリスク尺度については適切なバックテスト方法がないという指摘がある.この主張は,統計的決定理論における顕在化可能性(elicitability)という概念がバックテスト可能性と同等であるとみなしている点に疑問があり,これに対する反論をいくつかの研究集会で発表した. 複数のリスク要因間の相互依存関係をモデル化する道具として,近年では接合関数(コピュラ)がしばしば用いられる.この接合関数に対して推定・検定を行う際に,統計量の標本分布を推定するためには何らかのリサンプリング法が必要となる.リサンプリングを行う対象の分布として,離散な経験接合関数ではなく,それを平滑化したものを用いた方が効率的な場合がある.この目的に対して,渋谷政昭氏が考案した巧妙な方法を変形した形での平滑化を提案し,その漸近的性質を一部証明した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歪みリスク尺度の統計的性質については,中心極限定理が成り立つような範囲での漸近的性質や,多数の歪み関数と分布形を仮定しての数値的挙動についてはほぼ理解されたといってよい.この点で本研究はほぼ順調に進んでいるといってよいであろう.ただし,時系列が長期記憶性を持つ場合や分布の裾が極端に長い場合の挙動はすべて解明されたわけではなく,今後の研究課題となろう. 歪みリスク尺度に対する形式的なバックテストの統計的性質は限定的な条件の下でのみわかっている.今後はより現実に近い条件の下での振る舞いを調べる必要がある.それは,現在議論を巻き起こしている期待ショートフォール,および歪みリスク尺度のバックテスト可能性に対する反論として不可欠である. 本研究のもう一つの柱である,接合関数を用いた金融時系列データにおける複数変量間の相互依存性のモデリングについては,次年度に集中的に取り組みたい.現時点では比較的単純なGARCH(1,1)モデルや確率ボラティリティモデルにとどまっているが,少なくとも次年度中に,接合関数と所与の時系列構造の両立可能性を理論的に吟味することへの足掛かりを得たいと考えている. 現在研究中であるリサンプリング法のための経験接合関数の平滑化について,コンピュータ計算のためのコードはできており,ベルギーの研究者グループとの共同作業も進んでいる.
|
今後の研究の推進方策 |
歪みリスク尺度の推定については,金融時系列が長期記憶性を持つ場合や分布の裾が極端に長い場合の漸近挙動について,国内外の研究者の助言を得て解明していきたい. 歪みリスク尺度の適切なバックテスト可能性については,顕在化可能性とバックテスト可能性との関連を吟味し何らかの明確な結論が得られるように努力する.実施可能かつ包括的なバックテストの手法を開発することが,本研究の目的である定量的金融リスク管理のための統計モデルとデータ分析手法の開発・検討に欠かせない.このために海外の研究者との意見交換を密に行いたい.また,上記バックテストの問題の他に,歪みリスク尺度に関連する資本配賦の問題やポートフォリオ最適化問題について,理論的,数値的に検証した結果を論文としてまとめる. 接合関数を用いた,多変量金融時系列データにおける複数変量間の相互依存性のモデリングについては,次年度も引き続き採択された統計数理研究所の共同利用研究課題「接合関数の理論とファイナンスへの応用」での活動も利用して,この分野の問題に関心を持つ研究者の興味を喚起し,さらには共同研究の可能性を探ることを考えている. 接合関数のリサンプリング法について現在分析中の漸近挙動については,ベルギーの研究者らとの共同研究として推進していく.
|
次年度の研究費の使用計画 |
計画していたソフトの更新手続きが不要になったことと,国内での研究集会講演が招待講演になったことなどにより,それに関する支出が別の財源で賄われたため,(B-A)の分の助成金が平成26年度にまわることとなった. 研究上必要となる書籍やPC,その周辺機器などの物品費として使用する.
|