接合関数モデルの統計的推定・検定においてこれまで提案されてきている統計量の多くは経験分布によりデータを確率変換した,いわゆる擬似観測値に基づいている.これは本質的に離散的なものであり,実際,各座標毎の順位の関数である.そして,この擬似観測値の経験分布である経験接合関数もまたその離散性から真の接合関数ではない. よって,実用上の見地からは,有限標本でのパフォーマンスやリサンプリング法の精密さを改善するために,経験接合関数を平滑化することによる利点があると考えられる.本年度の研究では,高次元ならではの困難を避けつつ効率的な計算方法・アルゴリズムを開発する目的のために,ベータ分布を用いた経験接合関数の平滑化(経験ベータ接合関数と命名)を提案し,その漸近的な結果を導いた.この経験ベータ接合関数はいかなる平滑化パラメータも要しないという利点もある.また,一様順序統計量を用いた,この平滑化接合関数からの非常に簡明なサンプリング法を開発し,モンテカルロ・シミュレーションによって,小標本における有効性や通常の経験接合関数と既存の平滑化との比較分析を行った. 時系列データに基づく歪みリスク尺度の推定量については,それが強一致性・漸近正規性をもつことを示し,その漸近分散の一致推定量を具体的に構成し,さらにモンテカルロ・シミュレーション分析でそのパフォーマンスを検討した論文が長期間の査読過程の末,無事出版された.本年度はその延長として非独立データに対するブートストラップ法によるバイアス補正のシミュレーション分析を行った.これは実務上的確なリスク評価・管理を遂行できるための方法を与えるものとして非常に意義のあることである. 歪みリスク尺度を用いたリスク資本配分に関しては,理論的計算結果とその解釈,そして数値的方法によるシミュレーション分析を行っている最中である.
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