喫煙の害にも関わらず、世界ではなお13億人が喫煙している。各国における女性喫煙の拡大や喫煙開始の低年齢化、今まで喫煙者の少なかった国における喫煙人口の増加は深刻な問題である。本研究では、関連する長期データを有する国でのデータを実証的に示し、曝露開始から死亡までが半世紀以上と長期である際に起こる統計的な問題点とその対応方法について報告した。 実証的な研究成果として、日本および英国の年齢別の累積喫煙開始割合と喫煙率の長期推移を推定し、出生コホートに着目して年齢別の肺癌死亡率の推移と対比し、WHOのBulletin等国際誌に公表した。英国人男性は日本人男性よりも喫煙開始年齢が早く、対応して肺癌死亡率もより若い年齢で上昇していた。日本では男女とも若年期喫煙者割合が長期的に増加しており、注意が必要である。 また、Lancet(レター)に英国で最初に多くが喫煙した女性コホートは1940年代ではなく1920年代中頃生まれで、肺癌死亡率も高いことを報告した。英国女性の喫煙指標は、短期間の間に世代(出生コホート)間で非単調な変化が生じた例である。喫煙習慣は単調に広がったのち縮小すると暗に仮定されることが多いが、実際には、上昇、減少、再上昇という複雑な変化がみられる。例えば、日本人女性の喫煙率は出生年に対し大きなU字を示しており、肺癌死亡率が一旦下がっているが再び上昇する可能性があり、注意が必要である。この他、データの欠測の問題、喫煙指標が複数あり異なる推移を示すことの問題、成人喫煙率と年齢調整死亡率などの要約指標の時代推移の解釈の問題などを報告した。 本年度は日本と英国以外の国も含めた国際比較を行い、学会発表を行った。また、喫煙と肺癌および肥満に関する日本語によるわかりやすい解説論文を公表した。今後、図書による解説を公表予定である。
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