研究課題/領域番号 |
24500356
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
栗木 哲 統計数理研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (90195545)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スキャン統計量 / 多重比較 / コーダルグラフ / 脳画像データ / ガウス確率場 |
研究実績の概要 |
本研究は,時間的,空間的相関構造を持った確率変数の組からマルコフ性を抽出することによって,時空間スキャン統計量の多重性調整p値の高速計算法の確立を目的とする.特に空間疫学の疾病集積クラスターの同定問題への応用を念頭に置いている.いままでの研究では,スキャン統計量の空間情報から定義される無向グラフのコーダル化によってマルコフ性を抽出し,得られたマルコフ性に基づく階層的逐次数値積分を用いて,多重性調整p値や検出力が計算可能であることを明らかした.またその考え方に基づいてCプログラムを作成し,さらにその高速化を試みた.またポアソン分布以外のへ適用,計算量・記憶容量の評価,公開データ解析への適用を行った.本年度はその延長として以下のことがらを行った. (i) 以上をすべてまとめる形で,テクニカルレポート "Recursive computation for evaluating the exact p-values of temporal and spatial scan statistics" by S. Kuriki, K. Takahashi, H. Hara, arXiv:1511.00108 を作成した. (ii) 国際学会 "2015 IMS China" (Kunming, China) において,招待講演の形で成果発表を行った. ところで,疾病集積クラスターの同定問題と似た構造を持つ問題に,脳画像データ (fMRI画像データ等)におけるホットスポットの同定問題がある.その分野では,同定のための閾値の設定や,クラスターサイズの有意性検定の方法についての標準的方法が既に存在する.しかしながらその導出は,ロシア(ソ連)の数学者 V. P. Nosko の一連の証明なし論文によるものであり,明らかではなかった.そこで本年度は,ヒューリステックな方法で,脳画像が滑らかなガウス確率場であると仮定したときのクラスターサイズの分布を導出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通りテクニカルレポートを作成し,論文投稿を行っている.また当初想定していた応用分野である空間疫学とは別の応用分野である脳画像データ解析に着目し,その分野での基本的な問題の整理を行うと共に今までの研究成果の応用可能性について検討した.これらのことは計画当初は想定していなかった異分野の融合研究であり,今後の進展が期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度,脳画像データのクラスターサイズの分布について着目し,その分布を導出したが,その証明は数学的には厳密なものでない.その厳密化を試みる予定である.また導出された分布は一種の極値分布であるため,これがどこまで数値的に精確であるものかどうかが明らかでない.数値実験を通して.実用に耐えられるものであるかどうかを確認する必要がある.また漸近展開による精度向上も試みる余地がある. また導出は確率場のガウス性を仮定したものであるが,その仮定を外したときにどうなるのかを,理論的および数値的に確認する必要もある.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたパソコン購入2件 (MacBook Pro, MacBook Air) が基盤研究費(運営費交付金)により充当可能であった.また2~3月に予定していた出張が,本務の都合でやむを得ず取り消したことが主な理由である,
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次年度使用額の使用計画 |
物品費(計算機関連物品,論文等),旅費(研究代表者自身のドイツUlm大への研究打合せ,米国シアトルでの成果発表,海外研究者2名の招聘),論文校正,等を予定している.
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