研究実績の概要 |
本研究では,空間的相関構造からマルコフ性を抽出することにより,多数の時空間スキャン統計量の同時分布の高速計算法を確立した.特に空間疫学の疾病集積クラスター検出問題を念頭におき,多重性調整p値の正確計算法を開発した. (i) 基本的な考え方は,スキャン統計量の空間情報,すなわち地理上の隣接関係から定義されるグラフのコーダル化によってマルコフ性を抽出し,階層的逐次数値積分を用いて多重性調整p値を計算するものである.この考えに基づき,多重性調整p値計算のためのCプログラムのプロトタイプを作成した. (ii) 計算量,記憶容量を評価した.インシデント数の総数を N, コーダル化したグラフのi番目のクリークの頂点の数を c(i),i番目のクリークを親とする頂点の数を pa(i) とするとき,計算量は N の max(c(i)+pa(i)) 乗に比例するものであった.また pa(i) が大きくならないようなコーダルグラフ拡張アルゴリズムを工夫した.c(i) が大きくならないような新たなスキャンウィンドウを構成した. (iii) ポアソンサンプリングの条件付分布としての多項分布ばかりではなく,縮退ガウス分布,ディリクレ分布,2多変数超幾何,ディリクレ多項分布でも本手法は有効であることを確認した. (iv) Naus の古典的な結果 (Wallenstein and Naus, 1973; Neff and Naus, 1980) との比較を行った.また,東京都と神奈川県における乳児死亡・新生児死亡数,Wallenstein (1980) の流産件数データや,Tango (2010) の山形県の胆嚢ガン件数データを解析した. (v) 2016年10月29日 (土) 統計数理研究所にて研究集会『応用統計学のひろがり』を開催した.
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