研究課題/領域番号 |
24500360
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大田 佳宏 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 特任准教授 (80436592)
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研究分担者 |
井原 茂男 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任教授 (30345136)
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キーワード | 超離散 / 転写 / セルオートマトン |
研究概要 |
遺伝子の転写におけるRNAポリメラーゼIIの粒子動態モデリングと、その超離散的手法を用いた時空間シミュレーションを行った。本モデリングとシミュレーションでは、RNAポリメラーゼIIの速度変化、停止、バックトラック、相互作用などの詳細なダイナミクスをより精細に再現するため、箱玉系に代表される超離散モデルのTotally Asymmetric Simple Exclusion Process(TASEP)をベースに、複数RNAポリメラーゼIIが相互作用をしながら移動していく蓄積排他モデルを改良した。さらに、3次元的なRNAポリメラーゼIIの移動も含めた独自のCAモデルを構築した。 提案者のこれまでの研究では、長い遺伝子については非常に良い再現性を示しており、加えて、速度変化の起きる染色体部位における数学的厳密解も示しているが、今年度は、短い遺伝子についてのRNAポリメラーゼIIの渋滞シミュレーションも行った。例えば、FOS、VCAM、ICAMの各遺伝子について、イントロニックRNAの減衰が起きずに、特定の時間範囲で蓄積され続けることを確認した。さらに、転写運動の障害となりうるタンパク質の時空間情報をChIP-Seqデータから取得して、そこで得られた情報をもとに超離散CAモデルを用いて、コンピュータシミュレーションを行った。 また、短い遺伝子に特徴的なRNAポリメラーゼIIの粒子動態の超離散渋滞モデルのシミュレーションによる実験データとの比較解析を行い、ヒステリシス現象のおきる条件などの検証を行った。以上の成果を論文にまとめ、論文誌に成果発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に示した通り、本研究はおおむね順調に進展している。特に近年の研究では、遺伝子の転写においてクロマチン相互作用などにより染色体は動的な3次元構造をとり、その結果、転写空間の物理距離が転写運動に大きな影響を与え、DNA上のポジションにおいて大きく離れた複数遺伝子についても機能的な相関が見られることがわかってきており、ますます重要な研究テーマとなっている。 本研究においても、オートマトンの新規モデルとして写像を取り入れ、RNAポリメラーゼIIの転写運動の記述をより実際の細胞の中での動きに対応させるなど、最新の研究状況に照らし合わせて、着実に進展させていると考えている。また、これらの成果は順次、論文誌や学会での成果発表を行っており、さらに次の新しい論文も投稿中であるため、本研究の達成度としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではこれまで、生成されるエクソニック・イントロニックRNAの発現量の波動態シミュレーションを行ってきた。ここでの計算は、時間と空間の分解能が0.01(min)×1(bp)レベルの高密度なシミュレーション計算を行っている。今後は平成26年度が最終年度ということで、これらの結果をさらに応用し、平成25年度までの研究で進展した粒子としてのRNAPII実体の運動のシミュレーション結果から、R3上のダイナミクスの座標情報を引数として、波としてのRNA生成の波動態シミュレーションへと研究を進展させる予定である。 具体的には、研究項目(1)(2)で得られた、RNAPIIの運動座標と、実験から取得された各種タンパク質の結合情報、エピジェネティック修飾の時空間座標情報を融合して用いることで、転写におけるRNA生成モデリングを行い、より精度の高い遺伝子転写の原理解明につなげることを予定している。 さらに、予備的な知見として探索空間での検証の際に、複数RNAPIIの協調運動において相互作用間隔にある規則が現れることを発見しているため、それらの規則とDNA、クロマチンのテリトリー構造、転写ファクトリーとの関連を精査する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究成果の学会発表のための旅費の予算を予定していましたが、まず先に論文誌への投稿を優先したため、学会発表の時期が平成26年度に延期されることになりました。そのため、今年度の執行額としては旅費の分が残ってしまい当該助成金が生じました。 上記の理由のため、次年度の予算では延期していた学会発表を速やかに行うことで、予算の有効活用を行い、研究成果を広く公開することに努めたいと考えています。
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