研究課題/領域番号 |
24500362
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大安 裕美 大阪大学, 情報科学研究科, 特任研究員 (40362397)
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研究分担者 |
藤 博幸 独立行政法人産業技術総合研究所, 生命情報工学研究センター, 副研究センター長 (70192656)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ケモカイン受容体 / ウイルス由来受容体 / シグナル伝達 / 機能分化 / 分子進化 |
研究概要 |
ケモカイン受容体(CKR)とそれに類縁のデコイ受容体とウイルス由来受容体について、進化の過程でそれらの間の機能分化を引きおこした機構を解明することを目的として、計算科学的手法による研究を行った。これの解明は、GPCR のシグナル伝達機構の理解を進めると同時に、ウイルス感染防御のための創薬への展開なども期待される。 CKRと類縁タンパク質の配列収集と分子進化系統解析:解析対象となる配列を収集し受容体間の進化的関係を調べるために、ゲノムおよびアミノ酸配列データベースに対して相同性検索を実施した。その結果、CKR 444本、類縁タンパク質178本を得た。これらをアラインメントしNJ法で分子系統樹を作成したところ、デコイ受容体は、CCRL1、CCRL2、CXCR7、CCBP2、DARC、ウイルス由来受容体は、E1、ORF74、UL33、β-herpes virus群、pox由来に分類された。系統樹から、これらのグループは、祖先型であるCKRからそれぞれ独立に派生してきたことが示唆された。 類縁受容体各群の配列特徴抽出:3タイプの受容体間のリガンド結合能、シグナル伝達能に差違が生じた要因を調べるために配列比較解析を実施した。今回グループ間の配列の差違の指標として使用したのは、カルバック-ライブラ情報量(KLI)である。各アラインメントサイトをCKRとその他のグループに分割し、各グループでのアミノ酸頻度を推定し、その違いをKLI で評価した。全サイトから得られたKLIの上位5%に対応するサイトを機能差に寄与するサイトの候補として選択したところ、1グループあたり約15サイトが得られた。 選択サイトの立体構造へのマッピング:上で選択されたサイトを、CXCR4の立体構造上へマッピングしたところ、デコイ受容体群とウイルス由来受容体群では選択サイトの空間的分布に大きな違いがあることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
解析の初期段階であるCKR、デコイ受容体、ウイルス由来受容体の配列収集およびそれらの分子系統解析が修了した。アラインメントはほぼ全長で作成でき、機能の変異と配列の差違についてタンパク質全体の領域で比較解析を行った。この解析により、デコイ受容体、ウイルス由来受容体がそれぞれ5グループに分類され、三者間の進化的な関係を明らかにした。当初計画では、本年度はウイルス由来受容体についてのみ解析を行う予定であったが、デコイ受容体についてもデータを収集することができ、予定以上に解析を進展することができた。 次に、機能差に関連するサイトの抽出を、KLIを指標とした配列の比較解析によって実施した。KLI の算出方法については、いくつかの手法を検討した。次に、全サイトから得られたKLIの上位5% に対応するサイトを選択して、CXCR4の立体構造の対応する位置にマッピングした。立体構造上に表示された選択サイトの空間分布は、細胞外ループと細胞質側ループの幾何重心をつなぐ軸上に、各アミノ酸のCαを直交射影することで傾向を解析した。この項目は、既知構造を使って実施されたが、予定していた研究計画より早く実施できた。 研究計画にあるように、KLIに替わる別の手法による特徴サイトの抽出も検討したが、これまでのところ、KLIがサイト選択にもっとも良好であった。 ここまでの結果は、論文としてまとめて発表し、2つの国内学会でも発表した。また、分担者の藤は、招待講演で海外発表した。
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今後の研究の推進方策 |
CKR、デコイおよびウイルス由来受容体は、それぞれの中のグループ間でも機能が多様化していることが知られている。たとえば、CCRL2 のようにケモカインではないリガンド(ケメリン)のデコイ受容体として機能しているものや、CXCR7のように従来のケモカインの経路とは異なるシグナル伝達をしているものが報告されている。また、ウイルス由来受容体のグループ間では、シグナル伝達を行うのにリガンドの要求性が異なっている。このような違いも、KLIから得られた変異サイトの空間的分布に反映されている可能性を示唆する結果が得られている。このことから、デコイやウイルス由来受容体のグループ内におけるさらに詳細な比較解析を実施することを計画している。また、KLIとは異なる手法でアラインメントから変異の大きなサイトを抽出する方法を引き続き検討する。 H24年度では、既知構造であるCXCR4を用いて変異の大きなサイトをマッピングしたが、昨年、新たなケモカイン受容体の立体構造としてCXCR1のNMRデータが報告された。CXCR4 では、結晶構造の安定化のために細胞質側ループをリゾチーム配列に替えたりN末側を削ったりとかなりの変異が加えられていたのに対し、CXCR1はintact な配列のままである。この2つの立体構造を比較解析して違いをみるとともに、モデル構造の構築の際に参考とするCKR構造として使用する。これらの既知構造を基に、デコイやウイルス由来受容体のモデル構造をホモロジーモデリング法によって構築する。これらの構造上にマッピングされたサイトの分布の偏りを統計的に解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度は、分担者の方で約6万円の繰越金が発生した。これは、解析に使用する計算ソフトに適切な物(内容、価格)がなかったことによる。 25年度は、この繰越金を加えた額で、統計解析用のソフトの購入や研究打ち合わせのための旅費に使用する計画である。また、代表者は、H24年度にメイン計算機を購入済みであるので、解析用ソフトや旅費(学会発表、研究打ち合わせ)に使用する計画を立てている。
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