研究課題/領域番号 |
24500362
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大安 裕美 大阪大学, 情報科学研究科, 特任研究員 (40362397)
|
研究分担者 |
藤 博幸 独立行政法人産業技術総合研究所, 生命情報工学研究センター, 副研究センター長 (70192656)
|
キーワード | ケモカイン受容体 / ウイルス由来受容体 / シグナル伝達 / 機能分化 / 分子進化 |
研究概要 |
ケモカイン受容体(CKR)とそれらに類縁なウイルス受容体、デコイ受容体は、進化の過程でシグナル伝達能、リガンド結合能などが多様化しており、これらの機能分化のメカニズムを解明すべく計算科学的手法にて解析を進めている。この研究は、恒常性維持や炎症・免疫反応およびウイルス感染の防御などに対する受容体の機能多様性システムを理解することを目的としており、広くはCKR群が属するGPCRの作用機序の把握につながり、創薬方面への応用が期待される。 今年度は、ウイルス受容体のORF74、デコイ受容体のCCRL2およびCXCR7のモデル構造を作成し、それぞれに特徴的なアミノ酸残基の空間的配向について解析を行った。鋳型とした結晶構造はCXCR4(pdbID: 3oe8)とCCR5(pdbID: 4mbs)で、ターゲットと鋳型のアミノ酸配列のアラインメントをもとにSWISS-MODELでモデル構造を構築した。各受容体とも配列間のidentityは約30 %ながらギャップ箇所が少ないため、モデル構造と鋳型結晶構造とのRMSD は~ 0.6Åであり、これらは信頼性の高いモデル構造と考えられる。また、モデル構造間のRMSDは約0.8Åとなり、ウイルス、デコイ受容体間の全体構造も非常に類似していることが示唆された。 これらのモデル構造に対して、前年にカルバック-ライブラ情報量(KLI)で抽出した特徴的なアミノ酸残基をマッピングした結果、CCRL2では細胞外のリガンド結合ポケット入口付近に側鎖の大きな残基や電荷を持つ残基が多く、ポケットの底部とDRY motif周辺の電荷分布も変化していることが明らかになった。また、CXCR7ではリガンド結合に関わるような領域に変化は少なく、DRY motif周辺に特徴アミノ酸が集中していた。ORF74は、DRY motifに加えてNPxxY5-6F motifに変化が大きく、Gタンパク質との相互作用に影響を与える可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はウイルス受容体およびデコイ受容体について、ケモカイン受容体を鋳型にホモロジーモデリング法によりモデル構造を構築し、各受容体に特徴的なアミノ酸の空間的配置について解析を行った。これは研究計画通りの進捗状況である。 モデル構造の構築に際して鋳型として使用した結晶構造は、当初の計画として挙げたCXCR4に加えて、このグループ内で比較的遠い系統関係にあるCCR5も用いた。2種類の結晶構造を鋳型とすることで、特定の鋳型の立体構造に依存的なモデル構造が形成されることを回避できた。ウイルス受容体に対する解析手法を踏まえたデコイ受容体の解析については、昨年度中に配列解析を前倒しで修了していたため、モデル構造の構築・解析を機能の異なる2つのタンパク質(CCRL2, CXCR7)に対して実施することができた。 このように作成された3種のタンパク質のモデル構造を比較したところ、ウイルス、デコイを含むケモカイン受容体群全体が非常に類似した立体構造をとることが示唆された。また、それらのモデル構造に、昨年度解析したシグナル伝達能やリガンド結合能の違いに関与することが推測された残基をマッピングし、その空間配置と機能の関係を調べることができた。このようにして、次年度実施予定のMDシミュレーションの基礎データを構築することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
1. モデル構造の分子シミュレーション 受容体のリガンドの認識やGタンパク質との結合を含めたシグナル伝達機構の解明に向けた研究において、分子動力学(MD)計算は非常に重要な役割を果たす。とりわけ、ケモカイン受容体群のような膜タンパク質の生体内での動きを予測するためには、脂質二重膜に埋め込んだ状態でMDを行う必要がある。現在、以下のようにMDの準備を進めている。計算資源としては遺伝研のスパコンを利用し、フリーのMDソフトウェアNAMDを用いて脂質二重膜と水の中でシミュレーションを行う。NAMDは既に遺伝研のスパコンにインストールし、動作を確認している。MDによるシミュレーション結果を用い、リガンドの結合を考慮する必要のないウイルス受容体に着目して、KLIで抽出した特徴的なアミノ酸残基の挙動などを比較解析する予定である。 2. KLI にかわる特徴抽出手法の開発 この研究で用いているKLIによるアミノ酸組成差を評価する手法とは、二種の離散分布の距離の評価法といえる。今回、KLI以外の離散分布の距離を調査したところ、カイ自乗統計量、一致距離(match distance)、コルモゴロフ-スミルノフ距離(Kormogorov-Smirnov distance)、地球移動距離(earth mover's distance)などがあることがわかった。またアミノ酸組成を20次元のベクトルと見なすと、その相関係数やユークリッド距離なども距離として利用できる。今年度は、これらの距離をKLI計算プログラムに組み込み、機能差のあるタンパク質のデータセットに適用し、距離間のクラスタ分析、スコア上位の予測アミノ酸の一致度の評価などを実施する計画である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
H25年度は、代表者で約34万円、分担者では約14万円の繰越金が発生した。これは、昨年度に大幅に研究が進行したことに対して、本年度は次年度に向けての準備過程の色合いが濃く、学会発表や論文化を先送りしたことによると考えている。 26年度は、配列解析から立体構造解析に向けて、MDシミュレーションなど解析の幅をさらに広げることを計画中である。また最終年度として研究とりまとめを行うため、必要なソフトの購入、研究打ち合わせや学会発表の旅費、論文化の費用などに使用する計画である。
|