研究課題/領域番号 |
24500363
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
能登 香 北里大学, 一般教育部, 講師 (20361818)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 大規模量子化学計算 / 分子動力学シミュレーション / 糖鎖 / 分子間相互作用 / 生体内水分子 / 抗体 / HIV |
研究概要 |
実施計画(1)「生体分子内の水分子の配置予測プログラムの整備」では,タンパク質の周囲に水分子を配置するプログラムの作成を開始した.タンパク質の座標データを読み込み,空間領域を定義した後,水分子と同じ大きさの球をタンパク質の周囲に配置する段階まで作成した.このプログラムを利用し,多数の水分子を含む生体分子のシミュレーションを行うため計算機を購入予定であった.ところが,大学設備として前年度秋に導入され,本研究費で購入予定の計算機と同じ機種が不調(計算中に突然再起動する現象)となり,安定稼働できない状態となった.現在も原因究明中である.原因が判明するまで購入は控え,プログラム開発及びそれに伴う計画は休止した. そこで実施計画(2)「生体分子内水分子の糖結合タンパク質における機能の解明I」を優先して進めた.HIV-1糖鎖認識抗体ヒト2G12を研究対象に,水分子が無い2G12抗体-リガンド複合体(PDB:1OP5)について,分子動力学およびMP2レベルでの大規模量子化学計算(FMO法)によるシミュレーションを行い,糖鎖リガンド(Man9GlcNAc2)とタンパク質間の相互作用解析を分子研の計算機等で実行した.抗体のリガンド認識で重要なリガンド内部位を明らかにすると共にリガンドの特徴的な枝分かれ構造も重要であることを示した.これらの結果を第93日本化学会春季年会で発表し,現在論文を投稿中である. 2G12が本来認識するD-マンノースよりも,D-フルクトースにより強く結合する実験結果が報告されている.この親和性の違いを2G12との複合体の結晶構造 (PDB:1OP3, 3OAY)を使い,前述の手法で糖鎖-抗体間の相互作用を定量的に解析し比較考察した.活性部位に存在する水分子のみを考慮したところ,その影響が両者で異なることが明らかになった.この結果を第31回日本糖質学会年会にて報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度はマシントラブルのため研究環境の整備の面で遅れた.しかし,研究計画の見直しを行い,分子研の大型計算機等を利用して研究目標(2)を積極的に進めた.また,研究対象を平成26年度に行う予定だったものに拡張した.得られた結果を学会発表及び投稿論文としてまとめることができたため,おおむね順調に進行していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
前年度にD-マンノースとD-フルクトースの2G12抗体に対するリガンド結合能の違いに関する研究を開始したので,第一にこれを進める.C-6位にアルキル修飾があるD-マンノースが抗体と強い相互作用を示す一方,C-5位にアルキル修飾がある場合には相互作用が弱くなるという実験結果は,生体内水分子を考慮しない手法によるシミュレーションでは再現できないことが前年度までの研究で明らかになった.さらに,活性部位内に存在する水分子の影響がD-マンノースとD-フルクトースでは異なることが判明した.そこで,分子動力学シミュレーション(AMBER12プログラム)により,古典レベルでの2G12抗体-リガンド複合体の生体内揺らぎの違いを,リガンドがD-マンノースとD-フルクトースの場合で比較考察することをまず行う.この結果をまとめ,前年度の量子化学計算結果と併せて国際会議(ISTCP-VIII)で発表する. 第二に生体分子内の水分子配置予測プログラムの整備,及び生体分子内水分子の糖結合タンパク質における機能の解明研究を行う.計算機不調の原因究明は納入業者と共同で行っており,その原因は特定されつつある.原因が判明次第,計算機を購入し,この研究を進める.糖結合タンパク質における生体分子内水分子の機能を明らかにするために,開発したプログラムを用いて分子内に水分子を配置させた2G12糖結合抗体を研究対象にする.分子動力学計算により,生体内揺らぎを考慮した構造を得た後,大規模量子化学計算を行い,リガンドとタンパク質間の相互作用解析を行う.この相互作用エネルギー値と,水を考慮しない場合の糖タンパク質での値(前年度研究結果)とを,網羅的に比較し,水分子の有無がタンパク質全体に与える影響を解析する.結果をまとめ,日本化学会年会で発表する.
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次年度の研究費の使用計画 |
一連の多くの水分子を含む生体分子のシミュレーションを行うため,並列計算機(Linuxシステムインテグレーションパック) HPC5000-Z800を購入する.研究成果を学会(2013年8月の国際会議(ISTCP-VIII),2014年の日本化学会年会)にて発表する予定である.
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