研究実績の概要 |
本年度は,生体内水分子が抗体の機能に与える影響を解析した.HIV-1認識2G12抗体と糖鎖リガンド(Man9GlcNAc2)複合体の結晶構造(PDB:1OP5)には水分子の情報が欠落している.この構造に,開発中の生体分子内の水分子配置予測プログラムで水分子を補完し,それを出発構造として分子動力学および電子相関を考慮した大規模量子化学計算によるシミュレーションを行った.抗体と糖鎖リガンド間相互作用の時間変化を追跡すると共に,生体内水分子の効果を解析した.生体内水分子を考慮しない場合,シミュレーション時間の経過と共に活性部位内でのリガンドの配座が大きく変化し,抗体―リガンド間の相互作用が弱くなることが明らかになった.これらの結果を国際会議(Computational Science Workshop 2014)で発表した. また,2G12抗体が本来認識するD-マンノースよりも,D-フルクトースにより強く結合する実験結果について,この結合能の違いの要因を解明する研究を前年度に引き続き行った.2G12抗体と各糖リガンドとの複合体の結晶構造 (PDB:1OP3, 3OAY) の解像度はそれぞれ1.75 Aと1.95 Aであるが,構造内の水分子の情報にばらつきがある.そこで,前述と同様に抗体―リガンド複合体結晶構造に水分子を補完した構造を作成し,分子動力学計算及び各スナップショット構造での大規模量子化学計算を行った.水分子の有無が抗体―リガンド間の相互作用エネルギー値や構造のダイナミクスに与える影響を網羅的に比較したところ,リガンドの配座,活性部位内における結合位置の安定性と相互作用エネルギーにおいて顕著な違いが見られ,生体内水分子を考慮した場合に,実験結果を良く再現した.得られた結果を,日本糖質学会年会等で発表した.現在,これらの結果を学術雑誌に投稿準備中である.
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