研究課題/領域番号 |
24500368
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中尾 光之 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (20172265)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 視交叉上核 / 位相振動子 / 振動子ネットワーク / 同期 |
研究実績の概要 |
本研究では、位相振動子結合系を用いて、日長を反映した不均一な同期集団(Honma et al., 2007)が形成されるような光応答性をモデル化している。その枠組みとして、周期調節モデルを提案している。これまで、周期調節モデルによって、振動子間の結合強度と周期変化のバランスで不均一な同期集団が形成されることを明らかにした。しかしながら、実際には動物は明期に維持される光強度を全て受容しているのではなく、極端な場合、明期の始まりと終わりの短い光パルスのみで同調が可能なことが実験的に示されている(スケルトンパルス)。このような光受容条件下でも空間的に不均一な同調を実現する条件を周期調節機構の枠組みの中で明らかにした。スケルトンのような間欠的な入力の場合、より短いパルス間隔の方に活動期が不連続に跳躍する現象(ψ-ジャンプ)が生じることが分かった。しかしながら、これは長日の場合に正しい日長表現ができないことを意味し、スケルトンのような光受容は必ずしも生物学的な妥当性を有しないことになる。そこで、スケルトンの中間にも光パルスが存在するような光受容を仮定し、連続的な周期調節を可能とする応答関数を区分線形な形状として求めた。さらに周期調節機構を持つSCN振動子ネットワークにおける不均一同期集団が形成され、それが結合強度の違いでスプリットした同期集団が融合することを確認した。また、その光応答関数を実現する分子レベルのメカニズムを検討している。また、現在の周期調節モデルは離散力学系で表現されているが、これをよりリミットサイクル本来の構造に近づけるために、VRC(Velocity Response Curve)の枠組みでも周期調節モデルと同様な現象が引き起こされるかどうかを検証し、その可能性を示した。このため、その光受容メカニズムを有する振動子集団の同期特性を明らかにする必要性が生じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、結合調節モデルによる不均一同期集団の形成シミュレーション、周期調節モデルではスケルトンパルスなどの多様な光受容を仮定した場合の日長表現を可能にする光応答関数の推定、および、それらのペースメーカ細胞の縮約モデルへの反映と、その結合系による視交叉上核の同期パターンの再現が目標であった。具体的には、位相振動子結合系を用いて、振動子間の結合あるいは光応答性に依存して日長を反映した不均一な同期集団(Honma et al., 2007)が形成されるかどうかを調べた。結合強度を強めることで、長日でスプリットした同期位相分布が融合する場合としない場合があった。光外力による同期と振動子間結合の相互作用により集団的な同期パターンが決定されることが明らかになった。周期調節モデルでは、スケルトンパルス時の同期位相のψ-ジャンプによる日長表現の多義性を防ぐために、スケルトンパルスの中間に新たな光パルスを挿入した条件下で、一意の日長表現が可能な光応答関数を求めた。さらに、その光応答性を有する位相振動子を結合した系で、結合強度を強めた際、長日でスプリットした同期位相分布が融合する条件を求めた。また離散力学系で表現された周期調節モデルより実際のリミットサイクルに沿った構造をもつVRCモデルで同様な結果が得られるかどうかを検証し、その可能性を示した。この光受容機構を有する振動子結合系の同期特性を調べ、さらにその結果をペースメーカ細胞の縮約モデルに組込んだ上で視交叉上核のモデルを構築する作業が新たに加わった。
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今後の研究の推進方策 |
VRCモデルにおける位相応答関数を有する振動子結合系の同期特性を調べ、それが多様な光受容メカニズムの下で一意の日長表現を可能にする条件を探索する。さらにその結果をペースメーカ細胞の縮約モデルに組込んだ上で視交叉上核のモデルを構築する。また、これらの成果を国内外の学会発表や学術論文として発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成25,26年度と視交叉上核細胞の光同調機構として新しい積分型光応答(周期調節型)のモデリングを行ってきた。それにより、日長の変化によって生じる視交叉上核の空間的に不均一な同調パターンを再現することができた(第20および21回日本時間生物学会大会発表)。これは従来の同調機構とは全く異なるため、新たに提案する機構の妥当性を示すことを目的とした網羅的な光条件下でのダイナミクスの解析がさらに必要となった。また、周期調節モデルで得られた結果の一般性を主張するためには、リミットサイクルに近い構造を有するVRCモデルにおける現象の再現性を確認する必要性があらたに生じた。 以上の理由により、国際会議での成果発表のための旅費、網羅的なシミュレーションのための謝金、論文発表のための校閲料において未使用が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
周期調節モデルについて網羅的な光条件下でのダイナミクスの解析を完成すると共に、VRCモデルについても結合振動子系の同調特性を明らかにし、結果を取りまとめて学会発表ならびに学術誌で論文発表することとし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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