研究実績の概要 |
本研究では、位相振動子結合系を用いて、日長を反映した不均一な同期集団(Honma et al., 2007)が形成されるような光応答性をモデル化している。その枠組みとして、周期調節モデルを提案した。これまで、周期調節モデルによって、振動子間の結合強度と周期変化のバランスで不均一な同期集団が形成されることを明らかにした。この周期調節モデルは離散力学系で表現されているが、これをよりリミットサイクル本来の構造に近づけるために、VRC(Velocity Response Curve)の枠組みでも周期調節モデルと同様な現象が引き起こされるかどうかを検証し、その可能性を示した。このため、平成27年度では、その光受容メカニズムを有する振動子集団の同期特性を明らかにすることを課題とした。振動子集団の時空間同期ダイナミクスによる日長表現の本質は、(1)振動子の固有周期の分布、(2)結合強度、(3)deadzone長、によって決まる。基本的には、(1)が十分な多様性を有するなら、一定の明暗条件下では振動子集団の同期位相はある広がりを持つ。特に、deadzone付の光応答特性を有する場合には同期位相分布は長日でスプリットする。また、結合強度を強めれば振動子集団の同期位相分布は先鋭化するが、強すぎる場合は振動子間の同期性は高まるが光同調性は失われる。解析的な研究から、回路網同期を保持しながら明暗サイクルへの同調位相が結合強度に連続的に依存するdeadzone長を明らかにした。また、その結果を、振動子集団の同期ダイナミクスとして確かめた。これにより周期調節という光同調メカニズムが振動子集団における日長表現の本質的メカニズムの一つであることが示された。この光同調特性は生物時計機構のマルチスケールモデリング、即ち、細胞・分子レベルおよび行動学的レベルへとスケールを縮小・拡大した際、それを貫く不変の原理となる。
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