昨年度の研究推進方策に基づき、利き手テスト後の個体においてカドヘリン20遺伝子の発現解析を行った。近交系ラット(F344)雄を7週齢で購入後、単独飼育を行い、10週齢で1日間50回、4日間のfood reachingタスクを行った。その結果、タスクを行った8匹において、右利きが3個体、左利きが5個体であった。近交系でないラットを用いた過去の利き手テストの結果では、集団内において右利きが約70%、左利きが約20%、および両利きが約10%と報告されており、F344ラットでは、集団レベルにおいてやや左利きへの側方化が認められる可能性が新たに判明した。切片の損傷がなく発現解析が達成できた個体(n=5)の内、右利き個体では、線条体前方部でのカドヘリン20遺伝子の発現細胞の数が右側で優位であり(n=2/2)、左利き個体では、発現細胞の数に優位な左右差が認められなかった個体(2/2)と左側でやや発現細胞数が優位である個体(n=1)が存在した。これらの結果から、線条体の前後方向におけるカドヘリン20発現の左右差と利き手の間に関連性があることが示唆された。 カドヘリン20遺伝子が発現する線条体腹外側部の形成過程を明らかにするために生後1および2週齢のSDラットにおいて、既知の線条体のマーカー遺伝子との発現ドメインの比較を行った。1週齢では、線条体の前後方向に沿って、CB1Rが線条体の中間部から前方にかけて発現し、Gpr155は線条体の中間部から後方にかけて発現勾配が認められるが、カドヘリン20の発現は発現開始時からCB1RとGpr155が重なる中間部の狭い領域に限定されていた。また、カドヘリン20陽性の投射ニューロンの大部分は、Drd1発現の直接路ニューロンであることが判明した。このことから、カドヘリン20の発現で区別可能な直接路ニューロン新規サブタイプが存在することが明らかとなった。
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