研究課題/領域番号 |
24500381
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
出口 誠 山口大学, 医学部附属病院, 助教 (10452640)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神経再生 / 胚性幹細胞 / 錐体細胞 |
研究概要 |
我々はGFP(Green Fruorecens Protein)ES細胞株を用い、マウスストローマ細胞株(MS5細胞)との共培養法を改編し神経分化誘導を行った。in vitroの実験では6日間の共培養により全細胞の約80%が神経前駆細胞のマーカーであるnestinやRC2が陽性であった。更にin vitroにて2週間分化誘導を行うと、約80%が神経細胞マーカーであるNeuNやMap2を発現する事が示された。次に分化誘導6日目の神経前駆細胞を多く含む細胞集団をP3マウス大脳各部位(運動野、感覚野、視覚野、聴覚野)の皮質深層(第5層)へ移植した。3週間後にGFP蛋白に対するDABを用いた免疫染色法により評価した。各皮質野へ移植された神経前駆細胞は、運動野からは錐体路・視床前核へ、感覚野からは視床後外側核・上丘腹側・橋腹側へ、視覚野からは外側膝状体・上丘背側・橋腹側へ、聴覚野からは内側膝状体・下丘へと軸索を投射する事を、暗視野検鏡により分化細胞の細部、具体的には軸索、樹状突起から樹状突起棘まで観察可能であった。以上の結果からは、MS5との共培養で神経系へ分化誘導したES細胞由来の神経前駆細胞は脳内の適切な部位(皮質第5層)で軸索を投射する錐体細胞へ分化可能である事が示された。つまり移植細胞は軸索投射性の錐体細胞へ分化出来、かつ脳内神経ネットワーク構築へ参加可能である事が示された。これが運動神経細胞が選択的に障害される筋委縮性側索硬化症や脊髄損傷などで応用されれば、神経ネットワークの再構築を基盤として運動機能の改善をもたらす新しい治療概念を構築出来る可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究一年目の予定は以下の通りである。1)大脳皮質内での投射性神経細胞への分化能力を形態学的特徴に基づき評価。2)錐体細胞からの樹状突起・軸索を介した正確な局所回路、長距離投射の評価。in vitroでの神経分化誘導は概ね計画通り可能であり、更に成熟した神経細胞への分化も可能であった。この結果は移植後のレシピエント脳内でも同様に成熟神経細胞へ分化する可能性を示唆するものである。実際、移植により良好な脳内生着がみられ、更に神経前駆細胞から成熟した神経細胞へ分化出来る事を示す事が出来た。成熟した細胞が軸索を伸長する事、更に脳内の正常解剖に乗っ取ったネットワークを構築へ参加可能である事を示す事が出来た。 一連の実績は当初の予定とほぼ合致するものである。
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今後の研究の推進方策 |
ES-NPCsの遺伝子発現プロファイルが、移植後宿主脳内において神経分化、神経回路網形成能に影響するのかどうか検討する。神経幹/前駆細胞は様々な遺伝子プロファイルを持ち、最適なNiche内においてのみ適切かつ十分に分化する事が予想される。そこで意図的に脊髄運動神経への分化に運命決定されたES-NPCsを各大脳皮質へ移植する事により錐体細胞への分化能、神経回路網形成能の差が出るのかどうかを評価する。 具体的には、胚様体・レチノイン酸添加による神経分化誘導法を用いて、脊髄運動神経前駆細胞を誘導する。次にRT-PCR法を用いて、脊髄神経に特異的な遺伝子のみを発現し、前脳形成に必要な神経転写因子の発現が無い事を確認する。更に、免疫染色でも皮質第5層に特異的なCTIP2、Otx1、TBR1に対する免疫染色を用いて、その細胞内発現の有無を解析する。先に述べたように、MS5との共培養により、全脳形成に必要な神経系転写因子を発現するES-NPCsの分化誘導法は確立しているので、遺伝子プロファイル、Nicheとの適合性を分子生物学的、免疫組織学的に解析可能である。次に、運動野、感覚野、視覚野、聴覚野の各皮質深層へ移植し、GFP蛋白に対する免疫染色を用いて、形態学的に分化能と神経回路網形成能を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費:本年度の実験内容には大きな変更点は無かったが、細胞培養、免疫染色等in vitroの研究が順調にすすんだため、主に高額な抗体、試薬の購入数が大幅に減少し、購入予定費がかなり低額に抑えられたため、未使用額が生じた。この未使用額については平成25年度に予定している動物実験で使用する試薬や動物の購入費と併せて使用する予定である。 旅費:本年参加を予定していた米国神経学会には日本の学会と時期が重なり、参加する事が出来なかったため、旅費、参加費の未使用額が生じた。この未使用額については平成25年度の学会参加費、旅費と併せて使用する。
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