平成27年度までに我々はGFP(Green Fruorecens Protein)ES細胞株を用い、マウスストローマ細胞株(MS5細胞)との共培養法を改編し神経分化誘導を行った神経前駆細胞が、P3マウス大脳各部位(運動野、感覚野、視覚野、聴覚野)の皮質深層(第5層)へ移植された場合、軸索投射性の錐体細胞へ分化出来、かつ脳内神経ネットワーク構築へ参加可能である事を示した。これが運動神経細胞が選択的に障害される筋委縮性側索硬化症や脊髄損傷などで応用されれば、神経ネットワークの再構築を基盤として運動機能の改善をもたらす新しい治療概念を構築出来る可能性がある。次にこの現象が、神経前駆細胞の発現遺伝子プロファイルによって特異的なものなのか、あるいは非特異的なものなのかの評価を行った。具体的にはレチノイン酸を用いて脊髄神経に特異的な遺伝子発現プロファイルを有する神経前駆細胞を誘導し、これを大脳皮質深部へ移植した結果、軸索はMS5との共培養で得られた、前脳背側の神経細胞に特異的な遺伝子プロファイルを持つ神経前駆細胞移植に比べ、劇的に軸索伸長が減少した。この結果は、神経細胞移植を行う場合、各部位に特異的な遺伝子発現プロファイルを有する細胞を移植する事が重要である事を示したものである。
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