研究課題/領域番号 |
24500387
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
中尾 啓子 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (70338185)
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研究分担者 |
伊丹 千晶 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (90392430)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | Notchシグナル / リモデリング / 活動依存的シグナル伝達 / 子宮内電気穿孔法 / 興奮性神経細胞 / 抑制性神経細胞 / 大脳皮質体性感覚野 |
研究概要 |
高等動物の場合、出生児の未成熟な脳が環境から影響を受け神経活動依存的に回路が成熟する『臨界期』とよばれる時期を経て成人型の脳へと発達する。 近年、活動依存的に活性化される様々シグナル伝達系の存在も次々と明らかになってきているが、それらのシグナル伝達系は、胚の初期発生過程においては、神経幹細胞から神経細胞への分化に関わっており、神経細胞に分化した後には、機能分化にも働いている可能性が考えられた。 そこで我々は、体性感覚野の発達期に見られる回路形成をモデルとして、種々のシグナル伝達系が神経細胞の活動依存的機能分化に関わるメカニズムを明らかにすることを目的として研究を行っている。我々は、かつてRBPJ-k依存的なNotchシグナルの活性をin vivoで検出できるレポーターを開発したが(Kohyama et al Dev. Biol. 2005 特許第4599610号(平成22年10月8日)、Tokunaga et al J Neurochem. 2004 このレポーターを子宮内エレクトロポレーションによりに導入したところ、バレル形成期に第IV層の興奮性神経細胞において一過性にNotchシグナルの活性がRBP-Jk依存的に上昇していることを見いだした。このNotchの活性化は、末梢体性感覚器ヒゲ(洞毛)を焼灼したマウスの同じ部位の神経細胞においては低下していた。また、子宮内エレクトロポレーションによって、Notchシグナルのノックダウンベクターまたは、恒常的活性化型のベクターを導入すると、バレル形成が著しく阻害されることがわかった。これらの結果は「外部からの入力依存的に引き起こされる第IV層の興奮性神経細胞における一過性のNotch活性の上昇が、バレル形成に重要な役割を果たしている」という仮説を支持するものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、Notchシグナルの体性感覚野におけるNotchシグナル活性の検出、体性感覚野におけるNotchシグナルの活性化のヒゲからの感覚入力依存性の解析、体性感覚野におけるNotchシグナルの活性化のバレルシステム形成における役割を解析するために、野生型のマウス胚に子宮内電気穿孔法を用いて遺伝子導入する実験と、Notchシグナルの活性をin vivoで視覚化できるレポータートランスジェニックマウスやNotchのコンディショナルノックアウトマウスを用いる実験とを平行して行う予定であった。 しかし、子宮内電気穿孔法によるNotchシグナルのノックダウンの効果が当初の予想以上に大きく、バレル形成の初期過程で異常が見いだされたために、一年目は先に初期過程について明らかにすることにし、次年度以降にNotchのコンディショナルノックアウトマウスを用いてバレル形成の後期過程に関わるNotchシグナルの機能を明らかにすることにした。 また、研究分担者の伊丹が、海外留学のために研究分担を辞退することになった(平成24年10月5日承認)が、今後は連携研究者のグループのメンバーの協力が得られることになったので研究分担者の追加を行わずに当初の研究目的を達成するための実験を遂行できると考えてる。 こうした実験の順序の変更や研究分担者の変更はあったものの、3年間で達成予定の課題のおおよそ1/3を達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
Notchシグナルの活性をin vivoで視覚化できるレポータートランスジェニックマウスを用いて一次体性感覚野第IV層興奮性神経細胞におけるNotchシグナルの活性化の詳細を解析し、活動依存的、リガンド依存的なNotchシグナルの活性化の詳細を明らかにする。次にNotchシグナルの活動依存的活性化が体性感覚野バレルシステム形成において果たす役割をNotch shRNA型ベクターの子宮内エレクトロポレーション法により、または時期特異的または誘導的Notchのコンディショナルノックアウトマウスを用いることによりNotch遺伝子を不活化し i)バレル内の神経細胞の形態(樹状突起の微細形態と軸索の投射パターン)ii)バレル構造の形成iii)バレル内の神経細胞の機能分化(成熟)に異常が生じるかどうかを免疫組織化学的、電気生理学的手法で解析する。 また、バレル構造の完成した成体においてNotch活性を抑制するために、成体マウスの大脳皮質体性感覚野バレル領域にγ-セクレターゼ阻害剤DAPTを数日間続けて注入し、その後マウス脳を取り出す。バレル構造が保たれているか、ここの興奮性、抑制性神経細胞の形態に異常があるかどうか、また、電気生理学的解析を行うことによって、バレルにおける神経ネットワークが正常に機能しているかどうかについて、調べる。また、Notchのコンディショナルノックアウトマウス(floxed Notch alleleを用いCamKII-promoterの支配下でCre recombinaseを発現するLentivirus vectorを注入することで、成体マウス脳の体性感覚野においてNotch機能を阻害し、DAPT投与実験と同様な解析を行う。、成体マウス脳の体性感覚野においてNotch機能を阻害することによって、DAPT投与実験と同様な解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定では、体性感覚野におけるNotchシグナルの活性化のバレルシステム形成における役割を解析するために、野生型のマウス胚に子宮内電気穿孔法を用いて遺伝子導入する実験と、Notchシグナルの活性をin vivoで視覚化できるレポータートランスジェニックマウスやNotchのコンディショナルノックアウトマウスを用いた実験とを平行して行う予定であった。しかし、トランスジェニックマウスやノックアウトマウスを用いる実験には飼育費が膨大にかかるため、野生型マウス胚を用いる実験と時期的に分けることで飼育費を節約することにした。従って今年度は、B-Aが大幅に残っているが、次年度は、NotchシグナルのレポータートランスジェニックマウスやNotchのコンディショナルノックアウトマウス(floxed Notch alleleを用いて成体マウス脳の体性感覚野においてNotch機能を阻害し、バレル構造が保たれているか、ここの興奮性、抑制性神経細胞の形態に異常があるかどうか等の解析を行う予定であるため、こうしたトランスジェニック及びノックアウトマウスを用いた実験のためにた今年度はマウス飼育費が大幅に増大することが予想される。さらに、今年度は、Notchシグナルの子宮内電気穿孔法を用いたノックダウンによってバレル構造に顕著な異常が見られたためにいくつもの分子マーカーを用いた免疫組織学的検討の必要さえなかったので、試薬もさほど購入せずに済んだが、次年度以降は、さらに微細な検討を必要とするために一通りの興奮性神経細胞あるいは抑制性神経細胞のサブタイプ特異的な分子マーカーに対する抗体を購入する必要がある。 また、次年度は北米ニューロサイエンス学会等で結果発表する予定であるために(今年度は参加はしたが発表を行わず科研費で支出していない)そのための費用も必要になる。
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