研究課題/領域番号 |
24500388
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
浜崎 浩子 北里大学, 一般教育部, 教授 (00211483)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 行動神経科学 / 刷込み行動 / visual Wulst / IMM / NMDA受容体 / NR2B / ヒヨコ / 記憶学習 |
研究概要 |
1.刷込み成立直後のヒヨコ終脳のHDCo細胞の活動性とグルタミン酸受容体の活性について 液晶画面に赤四角を映して、画面の左右の端から端まで繰り返して動かした。これを孵化後1日(P1)のヒヨコに提示することで、刷込みのトレーニングを行った。30分のトレーニングによって刷込みが成立したので、トレーニング終了直後に急性脳スライスを作製し、刷込みに重要な神経回路である、VW-IMM回路の活動性の変化を調べた。光学的イメージング法により、この活動性がトレーニングにより増強していることがわかった。この増強は、トレーニング無しのヒヨコから作製した急性脳スライスのVW層に長期増強を誘導するような高頻度刺激を与えた時の反応と類似していた。さらに、texas red(蛍光色素)の注入によりHDCo細胞を可視化し、HDCo細胞の反応性を電気生理学的にホールセルパッチクランプ法により解析すると、トレーニング後のHDCo細胞では、グルタミン酸受容体のうちのNR2B含有NMDA受容体が活性化されていた。さらに、ウエスタンブロッティングを用いて調べると、シナプス後膜のその発現が上昇していた。 2.トレーニングの時間経過に伴うHDCo細胞の可塑的変化と刷込み成立との関連 20分間のトレーニングを前半10分間と後半10分間に分けて行うことができる。前半10分間のトレーニングでは刷込み行動は成立しないが、この時期に、すでにNR2B含有NMDA受容体の活性化と、その発現の増加が起きていたが、グルタミン酸受容体のうちのAMPA受容体の活性化や発現上昇は起きていなかった。後半10分間のトレーニング終了後にはAMPA受容体の活性化も起きていた。また、NR2Bの発現量を強制的に増加させた時、刷込みが促進されることが明らかになった。 これらのことから、NR2Bの活性化が刷込みに必要な回路の増強を引き起こすことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に記載した事柄について、研究を実施し、結果を得ることができた。論文を投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
1.NR2B含有NMDA受容体をもつHDCo細胞活性化のメカニズム マウスにおいては、NR2BのC末端にあるチロシン残基のリン酸化の促進により、NR2Bの細胞表面での発現が増加する。サイクリン依存性キナーゼ5(cdk5)は、この過程を阻害するので、細胞表面のNR2Bの発現を減少させる。また、NMDA受容体の活性化は、細胞内のCaイオン濃度を上昇させるのでcdk5が活性化されるが、これはcdk5の活性化分子であるp35を分解するので、結果的にcdk5の活性が減少してしまうことが、マウスでは知られている。HDCo細胞においても、NR2B含有NMDA受容体の活性化により、p35の分解とcdk5の減少が起きてシナプス表面のNR2B分子が増加するのではないかと考えられる。そこで、p35およびcdk5の抗体を用いたウエスタンブロッティングを行うことによって、この点についての検討を行う。 2.HDCo細胞の可視化と活性化されたHDCo細胞の形態的変化の解析 最初期遺伝子の一つであるArc/arg3.1(Arc)遺伝子の発現調節領域synaptic activity responsive element (SARE)が哺乳類で同定されており(Kawashima et al., 2009)、この配列と相同性の高い配列がニワトリゲノムで確認できている(未発表)。そこで、このSARE配列にArcの一部とEGFP配列を繋げたベクターを、2つのTol2トランスポゾン配列間に組み込む。これをトランスポザーゼ遺伝子発現ベクターと共にin ovo エレクトロポレーション法によって脳細胞ゲノムに導入する。遺伝子導入ヒヨコを孵化させ、刷込みトレーニングを行うと、活性化した細胞はEGFPを発現する予定である。そこで、学習記憶の成立後においてHDCo細胞に起こる形態的変化について明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
「次年度使用額」が生じたのは、平成24年度に予定していた実験が予定よりも順調に進んだため、消耗品の使用量を計画していた量よりも少なく抑えることができたためである。次年度に予定している研究に関する予備実験をすでに開始しているが、その条件検討が予定通りには進んでいないため、さらなる条件検討が必要な状況が生じている。このため、「次年度使用額」はこの予備実験に必要な消耗品の購入に充てる計画である。 ヒヨコを孵化させ、実験に用いるために、有精卵を購入してインキュベーションを行う。生化学的実験に必要な脳からのタンパク質精製・定量、SDS-PAGE電気泳動、ブロッティング、メンブレンの抗体反応に必要な試薬を購入する。さらに、電気生理学的実験に必要なガラスキャピラリー、阻害剤、蛍光試薬など、組織学的解析のための試薬、遺伝子導入用ベクターを調整する上で必要な分子生物学用試薬等を購入する。学会における成果発表のために旅費を支出する計画である。また、実験補助を行う研究協力者への謝金、論文の英文校閲、学会誌への投稿料・掲載料にかかわる経費などを支出する予定である。
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