研究課題/領域番号 |
24500388
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
浜崎 浩子 北里大学, 一般教育部, 教授 (00211483)
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キーワード | 行動神経科学 / 刷込み行動 / NMDA受容体 / NR2B / ヒヨコ / 記憶学習 / 幼弱期 |
研究概要 |
ヒヨコの刷込み行動をモデルとして、幼弱な時期に記憶・学習行動が容易に起こるメカニズムについて調べている。刷込み行動は、ひな鳥が親鳥の姿と声を覚えて、その後を追うという行動である。この行動を、液晶画面に映した動く図形に対してヒヨコに起こし、脳神経系に細胞レベルでどのような変化が起きているかを調べた。これまでに、神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体のうち、幼弱期に特に発現が高いNR2Bサブユニットを含むNMDA受容体(NR2B/NR1)がこの過程に重要であることを示してきた。 今年度は、short hairpin RNAを用いたRNA干渉法によって、薬剤を用いるよりも特異的にこの受容体の働きを阻害することで、この受容体が重要であることの確証を得た。また、学習過程を詳細に追った解析により、学習によってこの受容体が刺激されることで神経細胞が活性化し、これが刺激となって、細胞表面でのこの受容体の発現量が増加し、より神経細胞の活性化が進む、という「自己活性化」の機構があることを明らかにした。別の種類のグルタミン酸の受容体であるAMPA受容体は、このNR2B/NR1の自己活性化が起きた後に活性化されていた。 NR2B/NR1が刺激されることで、細胞表面でのこの受容体の発現が増加するメカニズムについても調べた。NR2B分子のC末端にあるチロシン残基がリン酸化されることで、NR2Bの細胞表面での発現が増加するが、サイクリン依存性キナーゼ5(cdk5)によりこの過程は阻害されることが知られている。刷込み学習に伴い、cdk5を活性化する分子であるp35が分解されていた。これにより、刷込み学習がNM2B/NR1を活性化することで細胞内のp35の減少が起き、cdk5が不活性化されて、NR2B/NR1の細胞表面での発現が増加することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画として4項目挙げたが、そのうち、3項目は達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の4番目の項目である、「HDCo細胞の可視化と活性化されたHDCo細胞の形態的変化の解析」を進める。現在までに、最初期遺伝子の一つであるArc/arg3.1(Arc)遺伝子の発現調節領域と相同性の高い配列をニワトリゲノムで確認し、単離した。この配列にEGFP配列を繋げた配列、また、CAGプロモーターにmCherry遺伝子を繋げた配列を、それぞれ2つのTol2トランスポゾン配列間に組み込んだベクターを作成した。この2種類のベクターをトランスポザーゼ遺伝子発現ベクターと共にin ovo エレクトロポレーション法によって脳細胞ゲノムに導入した。遺伝子導入ヒヨコに刷込みトレーニングを行うと、活性化した神経細胞ではEGFPの発現が見られることが確認できた。今後、遺伝子導入効率を安定させ、学習記憶の成立後における神経細胞のスパインや樹状突起、軸索走行の形態的変化について解析していく。さらに、アクチンフィラメントなど細胞骨格の形成やその制御に関わる分子について、組織学的・生化学的解析により明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画よりもサンプル数を少なく抑えることができたので、次年度使用額が生じた。 当初の計画よりも予備実験に経費が掛かることが見込まれるので、これに充当する予定である。
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