研究課題
ヒヨコの刷込み行動は、幼若期に学習の臨界期(学習可能な時期)がある学習のモデルである。刷込み行動には、ヒヨコの視覚中枢と記憶の貯蔵領域との間の神経回路が働いており、この回路における神経情報伝達が促進・強化されることが必須である。この過程には、NR2B含有NMDA受容体(脳内の主要な神経伝達物質であるグルタミン酸を受容する)の活性化が関与している。本研究では、刷込みの学習でどのような時間経過とメカニズムによってこの受容体の活性化が起き、その結果刷込みの神経回路を作る細胞が変化していくのかをとらえることで、学習の成立機序の解明をめざした。刷込みの神経回路を作る細胞として、この回路の重要な位置にあるHDCoと呼ばれる細胞に注目して解析を行った。神経活動の光学的イメージング法や電気生理学的方法を用いた解析で、刷込み学習直後では、HDCo細胞のNR2B含有NMDA受容体が活性化されており、生化学的解析ではシナプス膜上でこの受容体が発現上昇していた。NMDA受容体の活性化と発現上昇には、活性化が起きるほどより活性化が進むという、正のフィードバック機構が働いていた。そして、これらの変化はトレーニング初期のまだ刷込みが成立していない時期にすでに起きていた。トレーニングを継続すると、やがてAMPA受容体(グルタミン酸を受容するもう1つの受容体)の活性化と発現上昇が起き、刷込みの成立が見られることが明らかになった。さらに、脳細胞で働くNR2B含有NMDA受容体を増加させる操作を行うと、より短いトレーニングで刷込み行動が成立することが示された。これらのことから、刷込みのトレーニングによって、刷込みの神経回路の細胞でNR2B含有NMDA受容体の活性化が進むことが、刷込み成立の初期段階として重要であることが明らかとなった。これは、幼少期における様々な学習の成立メカニズムを示唆していた。
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J. Neurochem.
巻: 132 ページ: 110-123
10.1111/jnc.12954.
http://www.clas.kitasato-u.ac.jp/bio/personal/hamazaki/index2b.html